某所に出してエロだと言われました^^;)。
以前のguinea pigの後半書き直したバージョンです。どっちのラストがいいかは微妙。前のは後半くどくならないように敢えて短くしたんですが、削ったものがあったわけで。
guinea pig
——忍者隊としての出動命令は私には出せないが、ISO本部まで目立たないように来て、南部博士を手伝ってはくれまいか。
アンダーソン長官からの連絡の意味を測りかねながら、健は、南部のオフィスで待機していた。
急に話し声がして自動ドアが開いた。入ってきた人影を見て、健は思わず立ち上がった。
南部は二人のSPに支えられて、引きずられるようにして歩いていた。
「博士は一体?」
「会議の後の懇親会で倒れられまして。昼間のこともあったので気にはしていたのですが」
「何ですって!すぐ医者に……」
「いいんだ、健。このままで」
両側から肩を貸していたSPを振り払って、南部はその場に座り込んだ。
「何があったんですか」
「実は……」
SPの一人が語り始めた。
この日、南部は、極秘に進めたい実験があると言って、ISOの実験室に朝から閉じこもっていた。午後の会議の時間になっても現れなかったので、秘書が様子を見に行って、南部が倒れているのを発見した。急いで近くの病院に搬送し、検査をしたところ、いくつかの重い火傷の上筋肉も炎症を起こし、その上肋骨と鎖骨にヒビが入っていることがわかった。救急医はとりあえず傷の手当てをし、軽いショックを起こしていたので輸液を行いながら経過を見ていたのだが——。
「点滴に抗生剤を追加しに来た看護師がギャラクターのスパイで、南部博士の暗殺を企てたのです。薬に見せかけて致死量のカリウムを入れようとしたそうです。南部博士が感づいて止めようとしてもみ合いになり、駆けつけた医師と別の看護師によってスパイは捕らえられました」
「博士、よくご無事で……」
国連軍が守っているISO周辺ではギャラクターが表だった軍事行動をすることはなかったが、そのかわりギャラクターとISO情報部の諜報戦の最前線となっていた。病院とて例外ではない。
「本当に、よく気付かれたと我々も驚きました。せめて今晩くらいは入院するように言われたのですが、病院に居るよりは本部の方が安全だと南部博士は……」
強引にISO本部に戻った。
戻ったはいいが、マントル計画室長がISO本部に居て休める筈もなかった。別の会合で不在のアンダーソン長官の代理で、無公害都市の開発計画の会議を仕切った後、参加者を招いての懇親会に出席していた。乾杯の挨拶をした後も普通にグラスを片手に参加者と情報交換をし、遅れてやってきたアンダーソン長官に引き継いだ直後に、すぐ隣に居たSPに寄りかかるようにして意識を失った。
「医務室へと思ったのですが、すぐに気がつかれまして、オフィスの方へと仰ったのでこちらへ」
「手間をかけさせて済まなかった。本来の仕事にもどってくれたまえ」
床に座って俯き、息を吐きながら南部はどうにか言葉を発した。
「後は僕が……」
SPは顔を見合わせ、健に向かって会釈し、オフィスから出て行った。
「博士、立てますか」
「健、何故ここに?基地で待機ではなかったのか?」
「夕方、博士を手伝うようにとの連絡が長官から……」
「ああ、そうか」
事故があったという連絡は、長官には届いている。
健は、南部の左腕を首から肩に回し、ゆっくりと立ち上がった。南部が苦痛に顔を歪めた。
「どこかで休まないと……」
「それなら仮眠室がある。戻った時に予約を入れておいた」
「行きましょう、博士」
「その前に実験室を見ておかないと……」
南部は健に支えられながらどうにか仮眠室にたどり着いた。途中で、実験室に誰も立ち入っていないことを確認し、施錠も済ませた。
健は、ベッドに腰かけている南部の背広とベストを脱がせ、ネクタイを外した。Yシャツを脱がせようとしてボタンを外した健の手が止まった。肩から胸にかけて包帯が巻かれていた。両腕も半分以上が包帯に蔽われ、包帯が無い部分には、絆創膏でガーゼが止められていた。腕をできるだけ動かさないように、健はそっとワイシャツを脱がせた。南部は力尽きてベッドに横たわった。
「一体何をどうすればこんなになるんですか」
健は訊いた。
途中で立ち寄った実験室の電源まわりは焦げ、配線はあちこち千切れて金属線が垂れ下がっていた上、床には金属片や布の切れ端のようなものが散乱していた。実験室の惨状からすると、何か非常に強い力が働いたか、爆発事故が起きたに違い無かった。
南部は答えず、時折小さな呻き声を上げながら目を閉じていた。 健は南部を見つめた。このまま落ち着くのだろうかと思っていたら、十分ほどしていきなり南部は跳ね起きようとした。起こしかけた上半身を再びベッドに沈めて南部は歯を食いしばった。
「博士っ!」
「ここは……健?」
「本部の仮眠室です」
「そうか……私の上着を取ってくれ」
健が手渡した上着の内ポケットから、南部は、細い注射器とアンプルを取り出した。横になったまま器用にアンプルのガラスを切り飛ばして、中の液体を吸い上げると、注射針を左腕に突き刺した。わずかに眉をしかめながら、一気に液体を押し込み、針を引き抜いて溜息をついた。針にキャップを被せ、空になったアンプルをベッドサイドのテーブルに置いた。
「博士、それは?」
「痛み止めだ。ここでなら使っても大丈夫だろう」
健は、南部に向かって微笑んだ。いつ暗殺されるかわからない状況に置かれている南部にとっては、薬を使って休んだことさえも命取りになりかねない。そうならないように自分がここにいるのだ、と伝えたつもりだった。
「例えば、バードスーツのような特殊なスーツに外からエネルギーを与えて、人間の体でコントロールすることが可能ではないかとずっと考えていた」
南部は、天井を見つめて話し始めた。
「アイデアだけはずっと前からあった。もしうまく行けば、人間が人間以上の力を持つことになる。私は人の限界を超えてみたかった」
「しかし、そんなものがもしギャラクターの手に渡ったら……」
「そこだよ。私が思いつくようなことは、時間が経てばいずれ別の誰かが思いつく。科学の進歩なんてそんなものだ。そして思いついたのがギャラクターだったら、忍者隊にとっては途轍もない強敵になるだろう。それならいっそ自分の手で……私は密かに試作品を作った。バードスーツではない、普通の耐衝撃素材を使ったもので、基礎データを得るためだけのものだ。極秘に進めなければならないから、私一人でやった」
薬が効いてきたのか、南部は穏やかな表情で言葉を続けた。
「最初はゆっくりとした動きで、筋肉の動きが制御にどう使えるのかを記録した。そこまでは何の危険も無かった。そのうちに、どれほどの可能性があるものなのか試してみたくなった。試作品で出せるエネルギーは理論上の限界のせいぜい5分の1以下だ。私はダガーを握り締め、スーツに加えたエネルギーを使って、チタンのターゲットに突き立てた」
「うまく行ったんですか」
「一応は成功だ。ターゲットもダガーも粉々になった。しかし、増幅したエネルギーを抑えることができなかった。反応が遅れた、と思った時には、測定器もジェネレーターも道連れにしてスーツが千切れ飛んだようだ。気が付いたら病院に運び込まれていた。スーツからの力が面でかかったからこの程度で済んだのだ。一点に集中する形のものだったら、今頃は胸に穴が開いていた」
南部はゆっくりと起き上がり、ベッドの脇に立っている健に向き直った。
「健」
呼ばれて、跪いたまま南部の方に身を乗り出した健は、いきなり南部に抱きつかれた。
「は、博士?」
何を、と問いかける間もなく、耳元で囁く声が聞こえた。
「今日の最後のデータが取れていればそれを元に改良できる」
南部の両腕が背中に回っている。子供の頃のように、そのままぎゅっと抱きしめられることを健は予感した。が、南部は、腕全体を使って軽く健を抱えているだけだった。
「次には倍のエネルギーでもやれるかもしれない。だが……」
南部は、健の背筋の走る方向に沿って、指先をゆっくりと動かした。
「せめて私に君の半分でも身体能力があれば……」
南部は、健の脊椎の一つ一つを数えるように、右手の人差し指でなぞった。包帯越しに南部の胸が健に触れている。怪我の程度は外から見ただけではわからない。だが……抱きしめようとしても力が入らず、できなかったのだ、と健は悟った。南部は起き上がるのも苦痛なはずで、腕などまともに動かせる状態ではない。
背中に回した手が離れた。
「シャツを脱ぎたまえ、健」
何を言い出すのか、と、健は南部を見つめた。乱れた髪のまま、眼鏡の奥の目はまったく動かない。そういえば此処に来る直前まで南部は酒の席に居た。抱きしめられた時もまだ酒の匂いがしていた。さすがに酔われたのだろうか、と思いながら、健はTシャツを脱いだ。
おぉ、とも、あぁ、ともつかない溜息と共に、南部の目に光が宿る。
「できるかもしれない……」
何一つ見逃すまいとする南部の視線に、健は思わず顔を背けた。南部は目を見開いたまま、掌で健の胸を触り、腹筋を軽く押した。歓喜の表情で、形を把握し機能を測ることに集中している南部に向かって、正気なのですか、とは怖くて口に出せなかった。
「射撃や格闘なら経験でカバーできる部分がある。しかし咄嗟の場合の反射速度だけは、私ではどうにもならんのだ」
南部は、両手を健の肩においてすがりつくように健に凭れた。
「知ってしまったことを忘れるなどできん。先に進むしか……」
南部の両腕から急に力が抜けた。気分でも悪くなったのか、また倒れるのか、と健は慌てて南部を支えた。南部は頭を抱えて項垂れた。
「……私は今一体何を?君を実験台にしようなどと……殺すかもしれないのに。それでも……」
「今晩はもう休んでください」
健は、南部を抱きかかえて、ベッドに寝かせた。
「そうだな、どうもはっきりしない。薬のせいかな……いろいろ思い浮かぶのにまとまらない」
南部は、眼鏡の奥から気怠そうな目をして健を見ていた。
南部が使った薬は、僅か1ミリリットル程度の量で、上半身と両腕の怪我の痛みをほぼ完全に止めていた。南部が何を使ったのか健にはわからなかったが、おそらく中枢系に直接効く、むしろ劇物の類だという想像はついた。おまけに、南部は直前まで懇親会にかり出されて酒を飲んでいた。いかに南部でも、普段通りに活動できるわけがない。
「とりあえず怪我を治さないと」
「……うむ」
間延びした返事をして、南部は目を閉じ、そのまま寝息を立て始めた。健は、南部の眼鏡をそっと外した。
武器にせよ道具にせよ、南部はいつも完成品を出してきていた。人を使って何かを試す場合は、安全が確保できる場合に限られていた。勝算のない戦いに忍者隊を派遣することもなかった。それが、今晩に限っては、犠牲も厭わずに、可能性を試そうとした。
酒と薬で混乱した南部が垣間見せたのが、知った以上はなりふり構わず試さずには居られないという科学者の業だった。ギャラクターに荷担している科学者は、うっかり闇に引き込まれて戻ってこれなかった人達なのかもしれない。
「これまでに一体何度、そんな闇を覗いて来たんですか、南部博士」
健の呟きに、南部の答えは無かった。
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この作品、素晴らしいですっ!
まさに珠玉の短編。
以下、素晴らしいと思う理由をあげてみたいと思います。
(文章書くの苦手なんで、箇条書き風になりますが
お許しを。)
①日頃、八面玲瓏という形容詞がぴったりくる南部博士の
こころの闇をテーマとして取り上げておられる点。
↓
アニメの中では見られない博士の姿。
いつも博士は正義サイド。
彼に「ぶれ」は無い。
過去の科学者達が犯した過ちから学んでいた。
「正義の為」を御題目にとなえて開発された技術が
罪の無いひとびとを犠牲にした。→例:ヒロシマ、ナガサ キ
↓
この作品に登場する南部博士は
敵側にも共通する暗部を秘めていた!
「科学者の抱えるこころの闇<業>」
>、知った以上はなりふり構わず試さずには居られない という科学者の業だった。
↓
あの南部博士にこんな一面が有ったのか!
なんという悲劇か!
(博士可哀想すぐる~(TT))
(博士の暗部をこれでもかと抉り出す
作者さんどSですか………)
↓
<業>を行動化してしまう博士。
健に対しての常軌を逸した振る舞い。
このシーンの緊迫感!
<業>という魔物に支配され
博士はこのまま狂気の世界へ?
一旦送信。
②博士の精神の危機を救ったのは健だった、という点
健の肉体を目の当たりにして
健なら可能性を試せるかもと
こころの暗部へ足を踏み入れかける博士。
博士の理性を引き戻したのは
健のあたたかい受容の姿勢だった。
博士の行動に驚きつつも黙って
彼のさせたいようにした健、偉い!
他のメンバーでも混乱する博士を
受け止めることはできただろうが、
博士の方があそこまで己の暗部を
さらけだせたかどうかは判らない。
傷ついた自分の傍にそっと寄り添っていてくれた者が
健だったからこそ
博士は己が抱えていた<業>を
曝け出してしまえたのではないかとも思える。
「健」でなければならないのだ。
この小説の中で、博士に寄り添い
博士を狂気の淵から引き戻す役割を果たす者は。
南部博士と健は上官と部下という立場ではあるが、
『リーダー』という共通要素を持っている。
2人の間に、
何かしらの共通言語・共通感覚が
有るのではないか、と私は思っている。
リーダーは孤高の存在だ。
日頃のストレスも有り
メンタル・タフネスであろう博士も
ギリギリの状態だったのでは無かろうか。
博士にとっては辛くてしんどい体験だったろうが、
彼が極限まで追い詰められたのはかえって
良かったのではないかと思う。
そこまで追い詰められなければ
博士は幾重にもかけたこころのガードを解くことが
できなかったろうから。
こころの闇を一人で覗けば
そこに引きずり込まれる可能性が高い。
健が傍に居て本当に良かった。
(だらだらとすんません、_| ̄|○纏まって無い~)
一旦送信
うわ、何で2つ目の投稿が消えてるんだろう?
消えてませんでした………。
☆この作品の素晴らしい点を上げればきりがありません。
私には荷が重過ぎるので
どなたか他の方にバトン・タッチ。
☆もう好きに書かせて頂きますっ!
(って「既に空き放題やってるやんか」という
外野の突っ込みには耳栓^^)
☆この作品に登場する博士、萌え度高しっ!
乱れる博士なんてこんな美味しそうな食材は
めったに無い貴重なもの!
健ちゃんに抱きついて耳元で囁いた声なんて
セイレーンの様に妖しげだったに違いない。
日頃陽光にさらされることの少ない博士の指は
象牙の様にしろいだろう。
そのしろい指先が健の身体をまさぐる………。
このシーンの何とエロいことか!
(じゅるる~涎をぬぐう音^^)
博士は無論性的な意味合いで
健ちゃんの身体を触ってるわけじゃないんだけど。
いやあ、ああいいう流麗な筆致で書かれると
キターって感じで(←イミフ^^)。
健ちゃん、君、役得ですよっ!
博士に抱きつかれたりタッチされたりしてっ!
耳元ふーとか、
もう羨ましすぐるっ!
ああ、この物語の健ちゃんに成りたいっ!
博士が寝入った後で色々あーんなことやこーんなことを。
(バチーン!←正統派ファンの方々からの鉄槌)
すみません。自重。
この作品は素晴らしいサイコ・サスペンスだ!!と
これが言いたかったんです・・・。
長々と駄文タメ口投稿すみませんでした。
失言乱文お許しを。
②追記;
つまり博士は健という信頼できる相手に
こころの中に抱える<業>を
吐露することが出来、
受容されるという体験を経て、
精神崩壊の危機から救われたのだ。
良かったですね、博士。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これが抜けてました。すみません。
後先考えずに書くから私の文章ってダメダメ
何です~、お許しを。
TSさん、
いやもうこんな短い南部博士フィクに丁寧な感想ありがとうございます。
何と言っても、本編じゃ出てこない部分を補完できるのがフィクを書く醍醐味ですよねぇ。
本編にもデーモン博士との抗争なんか出てきてるわけで、南部博士ってば、きれい事だけで済む人生送ってるようにはみえないんですよねぇ。ひょっとして普段見せないだけで紙一重の部分があるのかしら、なんて思ったり。
ハイパーシュート開発話なわけで、いろいろ調べてやったにも関わらずFの後半健ちゃんに被害が及んでて、今度は助けるために南部長官必死だったし。
確かに、海の中の三日月基地とかISO本部ビルの中とかにいると、日焼けはしなさそうですね>南部博士。
で、やっぱりエロいですか……^^;)。狂気と紙一重ってあたりを狙ったんですが、わかってくださってうれしいです。南部博士の場合、どう見ても性的な意味で誰かに何かしそうなキャラじゃないので、そういうのと無関係に書くという制約はありますが、その方が書いてて面白い面もあります。
お気に入りキャラでフィクを書くとだいたいそのキャラがひどい目に遭うことが多いので、多分私がフィクを書くと今後も南部博士がいろいろと災難な目に……。博士かわいいのでついいじりたくなる……。