Reeさんのところとの連動企画です。
みけこさんのイラストから生まれたフィクです。イラストはReeさんのところにあります。
二次創作にご理解のある方のみごらんください。
【追記2010/08/10】
みけこさんからイラスト掲載OKの許可をいただきましたので貼ります。
この絵に合わせたストーリーを作ってみたのでした。素敵なイラストをありがとうございました、みけこさん。触角付き南部君を入手できてホクホクです。
※イラストはみけこさんによるものなので、他で利用する場合はみけこさんに了解をとってくださいね。
guinea pig
——忍者隊としての出動命令は私には出せないが、ISO本部まで目立たないように来て、南部博士を手伝ってはくれまいか。
アンダーソン長官からの連絡の意味を測りかねながら、健は、南部のオフィスで待機していた。
急に話し声がして自動ドアが開いた。入ってきた人影を見て、健は思わず立ち上がった。
南部は二人のSPに支えられて、引きずられるようにして歩いていた。
「博士は一体?」
「会議の後の懇親会で倒れられまして。昼間のこともあったので気にはしていたのですが」
「何ですって!すぐ医者に……」
「いいんだ、健。このままで」
両側から肩を貸していたSPを振り払って、南部はその場に座り込んだ。
「何があったんですか」
「実は……」
SPの一人が語り始めた。
この日、南部は、極秘に進めたい実験があると言って、ISOの実験室に朝から閉じこもっていた。午後の会議の時間になっても現れなかったので、秘書が様子を見に行って、南部が倒れているのを発見した。急いで近くの病院に搬送し、検査をしたところ、いくつかの重い火傷の上筋肉も炎症を起こし、その上肋骨と鎖骨にヒビが入っていることがわかった。救急医はとりあえず傷の手当てをし、軽いショックを起こしていたので輸液を行いながら経過を見ていたのだが——。
「点滴に抗生剤を追加しに来た看護師がギャラクターのスパイで、南部博士の暗殺を企てたのです。薬に見せかけて致死量のカリウムを入れようとしたそうです。南部博士が感づいて止めようとしてもみ合いになり、駆けつけた医師と別の看護師によってスパイは捕らえられました」
「博士、よくご無事で……」
国連軍が守っているISO周辺ではギャラクターが表だった軍事行動をすることはなかったが、そのかわりギャラクターとISO情報部の諜報戦の最前線となっていた。病院とて例外ではない。
「本当に、よく気付かれたと我々も驚きました。せめて今晩くらいは入院するように言われたのですが、病院に居るよりは本部の方が安全だと南部博士は……」
強引にISO本部に戻った。
戻ったはいいが、マントル計画室長がISO本部に居て休める筈もなかった。別の会合で不在のアンダーソン長官の代理で、無公害都市の開発計画の会議を仕切った後、参加者を招いての懇親会に出席していた。乾杯の挨拶をした後も普通にグラスを片手に参加者と情報交換をし、遅れてやってきたアンダーソン長官に引き継いだ直後に、すぐ隣に居たSPに寄りかかるようにして意識を失った。
「医務室へと思ったのですが、すぐに気がつかれまして、オフィスの方へと仰ったのでこちらへ」
「手間をかけさせて済まなかった。本来の仕事にもどってくれたまえ」
床に座って俯き、息を吐きながら南部はどうにか言葉を発した。
「後は僕が……」
SPは顔を見合わせ、健に向かって会釈し、オフィスから出て行った。
「博士、立てますか」
「健、何故ここに?基地で待機ではなかったのか?」
「夕方、博士を手伝うようにとの連絡が長官から……」
「ああ、そうか」
事故があったという連絡は、長官には届いている。
健は、南部の左腕を首から肩に回し、ゆっくりと立ち上がった。南部が苦痛に顔を歪めた。
「どこかで休まないと……」
「それなら仮眠室がある。戻った時に予約を入れておいた」
「行きましょう、博士」
「その前に実験室を見ておかないと……」
南部は健に支えられながらどうにか仮眠室にたどり着いた。途中で、実験室に誰も立ち入っていないことを確認し、施錠も済ませた。
健は、ベッドに腰かけている南部の背広とベストを脱がせ、ネクタイを外した。Yシャツを脱がせようとしてボタンを外した健の手が止まった。肩から胸にかけて包帯が巻かれていた。両腕も半分以上が包帯に蔽われ、包帯が無い部分には、絆創膏でガーゼが止められていた。腕をできるだけ動かさないように、健はそっとワイシャツを脱がせた。南部は力尽きてベッドに横たわった。
「一体何をどうすればこんなになるんですか」
健は訊いた。
途中で立ち寄った実験室の電源まわりは焦げ、配線はあちこち千切れて金属線が垂れ下がっていた上、床には金属片や布の切れ端のようなものが散乱していた。実験室の惨状からすると、何か非常に強い力が働いたか、爆発事故が起きたに違い無かった。
南部は答えず、時折小さな呻き声を上げながら目を閉じていた。 健は南部を見つめた。このまま落ち着くのだろうかと思っていたら、十分ほどしていきなり南部は跳ね起きようとした。起こしかけた上半身を再びベッドに沈めて南部は歯を食いしばった。
「博士っ!」
「ここは……健?」
「本部の仮眠室です」
「そうか……私の上着を取ってくれ」
健が手渡した上着の内ポケットから、南部は、細い注射器とアンプルを取り出した。横になったまま器用にアンプルのガラスを切り飛ばして、中の液体を吸い上げると、注射針を左腕に突き刺した。わずかに眉をしかめながら、一気に液体を押し込み、針を引き抜いて溜息をついた。針にキャップを被せ、空になったアンプルをベッドサイドのテーブルに置いた。
「博士、それは?」
「痛み止めだ。ここでなら使っても大丈夫だろう」
健は、南部に向かって微笑んだ。いつ暗殺されるかわからない状況に置かれている南部にとっては、薬を使って休んだことさえも命取りになりかねない。そうならないように自分がここにいるのだ、と伝えたつもりだった。
「例えば、バードスーツのような特殊なスーツに外からエネルギーを与えて、人間の体でコントロールすることが可能ではないかとずっと考えていた」
南部は、天井を見つめて話し始めた。
「アイデアだけはずっと前からあった。もしうまく行けば、人間が人間以上の力を持つことになる。私は人の限界を超えてみたかった」
「しかし、そんなものがもしギャラクターの手に渡ったら……」
「そこだよ。私が思いつくようなことは、時間が経てばいずれ別の誰かが思いつく。科学の進歩なんてそんなものだ。そして思いついたのがギャラクターだったら、忍者隊にとっては途轍もない強敵になるだろう。それならいっそ自分の手で……私は密かに試作品を作った。バードスーツではない、普通の耐衝撃素材を使ったもので、基礎データを得るためだけのものだ。極秘に進めなければならないから、私一人でやった」
薬が効いてきたのか、南部は穏やかな表情で言葉を続けた。
「最初はゆっくりとした動きで、筋肉の動きが制御にどう使えるのかを記録した。そこまでは何の危険も無かった。そのうちに、どれほどの可能性があるものなのか試してみたくなった。試作品で出せるエネルギーは理論上の限界のせいぜい5分の1以下だ。私はダガーを握り締め、スーツに加えたエネルギーを使って、チタンのターゲットに突き立てた」
「うまく行ったんですか」
「一応は成功だ。ターゲットもダガーも粉々になった。しかし、増幅したエネルギーを抑えることができなかった。反応が遅れた、と思った時には、測定器もジェネレーターも道連れにしてスーツが千切れ飛んだようだ。気が付いたら病院に運び込まれていた。スーツからの力が面でかかったからこの程度で済んだのだ。一点に集中する形のものだったら、今頃は胸に穴が開いていた」
南部はゆっくりと起き上がり、ベッドの脇に立っている健に向き直った。
「健」
呼ばれて、跪いたまま南部の方に身を乗り出した健は、いきなり南部に抱きしめられた。
「は、博士?」
「今日の最後のデータが取れていればそれを元に改良できる。次には倍のエネルギーでもやれるかもしれない。だが……」
南部の手は、健の背筋と骨格を正確になぞっていた。肩に触れ、胸に触れる。
「せめて私に君の半分でも身体能力があれば……射撃や格闘なら経験でカバーできる部分がある。しかし咄嗟の場合の反射速度だけはどうにもならん」
南部は、両手を健の肩においてすがりつくように健に凭れた。
「知ってしまったことを忘れるなどできん。先に進むしか……」
南部は頭を抱えて項垂れた。
「……私は今一体何を?君を実験台にしようなどと……殺すかもしれないのに。それでも……」
「いずれもっと安全な方法が見つかるんじゃないですか」
健は、南部の肩に手を添え、そっと寝かせた。
「そうだな、どうもはっきりしない。いろいろ思い浮かぶのにまとまらない」
南部は、眼鏡の奥から気怠い目をして健を見ていた。
南部が使った薬は、僅か1ミリリットル程度の量で、上半身と両腕の怪我の痛みをほぼ完全に止めている。南部が何を使ったのか健にはわからなかったが、おそらく中枢系に直接効く、むしろ劇物の類だろう。おまけに、南部は直前まで懇親会にかり出されて酒を飲んでいた。いかに南部でも、普段通りに活動できるわけがない。
「とりあえず怪我を治さないと」
「……うむ」
間延びした返事をして、南部は目を閉じ、そのまま寝息を立て始めた。
翌朝、健がジョーに事の顛末を連絡していたら、南部が起きてきた。
顔をしかめながらワイシャツを着て、ネクタイを締める。
「まだ痛むんですか?」
「昨日よりは楽になったがそう急には治らん」
「今日はジョーと交代します」
「忍者隊の仕事は私のボディーガードをすることではないぞ」
「でも今襲われたら打つ手が無いでしょう」
「それもそうだ」
南部は苦笑した。
「で、今日はどうなさるんです?」
「本部での仕事は山積みだが、まずは実験室の片付けだな」
「あの……博士、やっぱり続けるんですか?」
「一度や二度の失敗であきらめていたら科学者は務まらん。人で試すのが危険なら動物実験という手がある」
だったら自分の体で試す前に先にそうすればいいのに、と、健は深い溜息をついた。
後にガッチャマンに授けられ、ハイパーシュートと呼ばれることになる技の、最初の実験だった。
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やはり、自分が試してみないと気が済まない南部君でしたね。
死ななくてよかったです。いやそう言う問題じゃ・・・(^^;)
流石科学者☆
前しか向いていないと言うのが南部君らしいですね。
アンダーソン君も気が気じゃ無いだろうなぁ・・・(^^;)
五人の後見人は南部君だが、その実、南部君の子守は、五人だという・・・(笑)
涼さんらしい南部君、楽しませて頂きました(*^_^*)
Reeさん、
ひいきのキャラが酷い目に遭う法則、が見事に発動されたっぽいです(笑)。
健ファンのReeさんのところでは被害にあうのは健ちゃん。
南部君ファンの私のところでは被害にあうのは南部君。
でもあのハイパーシュートの実験、白色レグホン(本物)でやってれば、実験失敗後おいしくいただけたかも。
ところで、「自分の体で実験したい」って題名の本、実際にあります(爆)。
うーん、知的な文体だ・・・
裕川さんって、きっと理数系の人なんだろうなぁ。
雰囲気だけで、中身スカスカのみけこの絵に、しっかりとした骨格を持ったSSをつけてくださってありがとうございましたm(__)m
それにしても博士が健を抱きしめる件の、ほんのり色っぽいこと・・・!>博士は医学者として体に触れたのだと思うけど(笑)何度も読み直してしまいました。
こんばんわ
裕川さんの所への書き込みは、お初でしたね。
いつもながら、文体がかっこいいです。
南部博士の自ら実験体にしてしまうのって博士らしいですよね、健を実験台に…出来る筈無い
苦悩する博士萌え所です。
絡みが無くても、萌えますよ←節操無しでスミマセン
また、機会があったら書いて下さいね。
御贔屓キャラ弄るのって萌えませんか?(オイオイ;)
みけこさん、
こちらこそ、素敵なイラスト、眼福でしたよ~。
博士が抱きしめるシーンは……もっとしつこく書こうか迷ったところですが、全体の長さを考えてもあっさり目に味付けしてみました。
和子さん
いらっしゃいませ。
完成品だけ出して来るイメージのあった南部博士ですが、裏ではけっこう失敗もしてるだろうな、なんて思ったので書いてみました。
自分で書いてても、贔屓のキャラがいじられてエラい目にあいがちです、やっぱり。でもやっぱりその方が萌えます^^;)。
こんにちは、布川さん。
書き込みは初めての朝倉です。
自分で試すなんて博士らしいと言えばそうですが、これでは体が持ちませんよ。
でも・・科学者ってそういうものなのかしら?
おまけにしんどいのに健にていねいに説明しているのも・・・やはり南部博士らしいですわ。
朝倉 淳さん、
いらっしゃいませ。
諸君の前というか視聴者の前ではけっこうぱりっとした姿ばかり見せていた南部博士ですが、いろいろやってくれてたんじゃないかと想像して楽しんでます。
>でも・・科学者ってそういうものなのかしら?
実際にそういう人も居るみたいです(汗)。
http://www.amazon.co.jp/dp/4314010215/
妙に律儀で妙にマニアックで、説明したがりなことが多いのだけど、自分の興味で突っ走ってる時はいろいろすっ飛ばすあたりが萌えツボです>南部博士。
やっぱ涼さんのフィクが一番絵に合ってるねぇ。
ばしっと話が通ってます。
Reeのは無理矢理そのシーンに持っていったからなぁ・・・(^^;)
日々勉強だね。
頑張ります(*^_^*)
Reeさん、
でも、Reeさんのフィクも絵に合ってると思いますよ。
みけこさんの絵は、これから脱ぐところと思うか、これから着るところと思うかで、話の展開が違ってきそうです。