65話の敵と南部博士の台詞(初代65話)

|2010/5/17(月曜日)-23:00| カテゴリー: 初代
| 2 個のコメント

 初代65話「合成鉄獣スーパー・ベム」。
 ヤマシナ博士の脳が未確認生物に奪われ、忍者隊がおいかけるが滝壺付近で見失います。攻撃してきた未確認生物の触手を持ち帰って南部博士に見せます。

065-01.png

 巨大な電子顕微鏡に見える(さすがに70年代だから共焦点顕微鏡ではないだろう)で、未確認生物の試料を確認しています。
 このあと、南部博士は、顕微鏡から目を離し

065-02.png

これは、地球上に住んでいる生物じゃない。ベムだ。

と言います。さらに、

宇宙人でも下等な種類、つまり乱暴な種類の宇宙人に属している。

と続けます。

 私が引っ掛かったのは、なぜ博士の台詞が「これは、ベムという地球外生物の一種だ」ではなかったのか、ということです。南部博士であれば、問題の生物の固有名詞がわかっていて同定できていれば、そのことがわかるようにはっきり言うのではないでしょうか。

 敵メカの名前を何故か正義側も知っている(伝えられてもいないのに一体どうやって?)が子供番組のお約束でしたが、今回の敵は、ギャラクターが作り出したものではありません。元々宇宙に居た生物です。ということは、宇宙生物についての知識がある程度地球人側と共通のものであった場合、ギャラクターが勝手に名前をつけるということは無いでしょう。X1号と合成したあと、盗んだ脳でコントロールしているものについては、ギャラクターの作品ですからギャラクターが勝手に名付けてもいいんでしょうけど。にもかかわらず、ギャラクター側でもこの生物を「ベム」と呼んでいます。だから、この生物の種としての名前が「ベム」であることが既にわかっている、と思いたくなりますが、ちょっと待ってください。あくまでも南部博士の台詞の方にこだわって考えてみます。
 南部博士の台詞をそのまま受け取れば、仮にISOあたりで宇宙生物の分類学の研究が進んでいるとしても、今回の敵の種類を、南部博士は同定していない。というか同定できていないことになります。未知の生物を見た時にそれが下等かどうかを判定する基準はある程度わかっているけれど、宇宙生物分類図鑑を持っている状態ではないということのようです。
 もともと、「ベム」というのは、SF用語で、宇宙から来た未知の生物を指します。ウルトラマンの怪獣だって、宇宙由来のものは全て「ベム」ということになります。であるならば、この65話の「ベム」は、固有名詞ではなくて一般名詞だと考えた方が、筋が通ります。
 最初の南部博士の台詞は、地球外生命体のことを改めて「ベム」と言い直しただけだということになります。それは、広くそう呼ばれていた(というかむしろ常識になっていた)からでしょう。ギャラクターも、隊長や兵士などの構成員は地球人ですので、地球人の文化を共有していますから、まだ固有名詞が無い宇宙生物を仮に「ベム」と呼んだのでしょう。

 この回を解説したムック本の記述を引用してみます。
 「ガッチャマン全集」では、

医学センターに保存されていたヤマシナ博士の脳を宇宙生物ベムが奪い去った。

 「誰だっ!!科学忍者隊ガッチャマン」では、

竜巻ファイターで吹き飛ばすとベムが姿を現し、滝に逃げた。現場で入手した触手を南部博士に見せると、乱暴な宇宙生物と判明。

 「科学忍者隊ガッチャマンマテリアル」では

下等で乱暴な宇宙人・ベムと、故ヤマシナ博士が開発した高性能ロボ・X1号が合体した姿。

 「僕たちの好きな科学忍者隊ガッチャマン」では

幾本もの長い触手を持つ地球外生命体ベムが、医学センターからロボット工学の権威・山科博士の脳を強奪。

 コロムビアのDVDライナーノーツでは

ベム
ギャラクターが宇宙から連れてきた、下等な部類に属する宇宙人。

 デアゴスティーニでは

ギャラクターが宇宙から連れてきた地球外生命体ベムに、山科博士が作った万能ロボットX1号を合体させ(以下略)

 同人では定評のあるGLO&ガッチャマン対策本部さんの「科学忍者隊ガッチャマン鑑賞の手引き《改訂版》」では

ギャラクターは下等な宇宙生物ベムを地球に連れてきて、(以下略)
健がブーメランで切り取ったベムの触手を南部が分析すると、それは下等な種類の宇宙人ベムであることが判明した。

 といった具合で、ことごとく、「ベム」を固有名詞として扱っています。

 というわけで、南部博士の台詞の「ベム」は一般名詞だろうという私の説は、相当に旗色が悪いのでした^^;)。
 南部博士の台詞も微妙といえば微妙ですし、SF用語に地球外の未知の生命体をあらわす「ベム」というよく知られた用語が既にあったからといって、登場する地球外生命体が「ベム」という固有名詞を持ってはいけないという理由はありません。
 それでも、敢えてここで、あの触手生物はまだ名無しで「ベム」は一般名詞であり、名前が無いので敵味方ともとりあえず一般名詞で呼んでいた、という説を出しておきたいと思います。

 南部博士萌えの真っ最中なので、やはり、博士の台詞は大事にしたいんですよ。
 まあ、南部博士だったら曖昧な言い方はしないに違いない、という願望も多分に含まれてはいるんですけどね。

 あと、小隅センセがチェックしてたんなら、既に意味の決まっているSF用語を固有名詞にはしないんじゃないか、と思う部分もあったり。



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2 個のコメントがあります


  1. ゆかり on 2010/5/19(水曜日) 01:49

    裕川涼さん

    う~ん、深いですね。

    あの「ベム」という名前にそういう意味があるとは・・・。

    私なんぞ某妖怪人間を真っ先に連想したというのに(爆)

    そういえば、ウルトラマンの怪獣にも宇宙から追われてきたベムラーや、帰ってきたウルトラマンに登場した宇宙怪獣ベムスターっていうのがありましたね。

    あれもそうなのでしょうか?それとも偶然でしょうか・・・。

    話がそれてしまいました。すいません。

  2. 裕川涼 on 2010/5/19(水曜日) 17:55

    ゆかりさん、

     偶然でも何でもなく、ウルトラマンの怪獣の「ベム何とか」は、宇宙生物を指して「ベム」ということを知った上で名付けられたのでしょう。むしろ常識なので説明の必要が無かったんじゃないですかね。

     当時の子供達に一番人気があったのが「ベム」だ、ということを踏まえた上で、次の作品の企画を検討する、といった議論もなされていたようです。上原正三氏による「金城哲夫 ウルトラマン島唄」という本にもそのような記述があります。
     ウルトラQやウルトラマンの頃のSF特撮映画の脚本や企画には、福島正実氏をはじめとする日本SF界を初期から支えた大御所が名前を連ねていました。一方、ガッチャマンのSF考証は小隅黎氏で、この方は日本初のSF同人誌「宇宙塵」の主催者です。宇宙からやってきた未知生物を指してベムということは、日本のSF黎明期を支えた人達の間では共有されていた常識ではなかったかと。
     ですから、円谷プロの怪獣特撮映画のシナリオライターが、宇宙未知生物をベムと呼ぶことを知った上で、そういった名付け方をしたと考える方がよっぽど自然です。

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