Reeさんが書いているフィク(たくさんあるので、最終回へのリンク)の応援企画として作った、グレンダイザー&ガッチャマンコラボフィクです。私の普段の作風からはちょいと外れてます。また、純粋なグレンファンと純粋なガッチャマンファンの両方から快く思われないかもしれません(汗)。コラボにご理解のある方のみご覧下さい。しかし、初代の方と同期させたから、Reeさんのところの宇宙パルスネタとは時期が合わない……まあ、ガッチャマンは現実世界の通りに時間が進んでいる世界じゃないから、その辺は気にしないってことで。
●phase-1 宇宙科学研究所、地下整備工場
ベガ星の侵略が一段落したとある日、宇門は、ダブルスペイザーの調整をしていた。
グレンダイザーの大気圏中での最高速度はマッハ9。グレンダイザーと同じ光量子エンジンを使っているはずのダブルスペイザーの最高速度はマッハ4。開発した当初は、光量子利用の基本技術をなぞるだけで精一杯で、エンジンの小型化と性能アップを同時に実現するだけのレベルには到達できなかった。その結果、エンジンをダブルスペイザーに搭載可能なサイズにしたために、出力の限界も決まってしまった。エンジンの数を増やせば最高速度はもっと稼げるに違いない。280トンのグレンダイザーを振り回しても壊れない機体なのだから、合体しない状態でもっと高速度を出しても、空中分解はしないだろう。
宇門は、予備のロケットブースターを2基、ダブルスペイザーに背負わせた。操縦席から切り離せるように爆発ボルトで固定した。
「何やってるんですか、所長」
通信機で林が呼びかけてきた。
「これから、ダブルスペイザーの試験を行う。空いている試験空域はあるか?」
「ちょっと遠いんですが、赤道越えた南太平洋あたりなら大丈夫かと」
「よし、ちょっと出かけてくる。上の入り口を開けてくれ」
宇門は、サバイバルキット込みで二十キロ以上ある耐Gスーツを、ユニフォームの上から身に付け、操縦席に滑り込んだ。後部補助座席には、データ取り用の測定器を、ボルトやらシートベルトやらで固定してある。
宇門は、ゆっくりと左のレバーを押し込んだ。両翼のローターの回転が上がり、機体が水平に上昇した。背後にそびえ立つ研究所のシャッターを越えたところで、右のレバーを引いた。エンジンが青白い光を吹き出し、轟音を残しでダブルスペイザーは飛び立った。
●phase-2 三日月珊瑚礁基地
南部は、職員数人に命じて、格納庫内のゴッドフェニックスに測定機材を運び込ませた。圧力センサーやら加速度センサーやらを張り付けた等身大の人形を、健の席に座らせて、ベルトで固定した。
「本当にやるんですか?博士」
普段なら、南部の姿が出るはずのディスプレイに、インカムをつけた管制担当の職員が現れた。
「ああ。科学忍法火の鳥で操縦者にかかる負荷が予想よりも大きいようなんだ。もう一度測定しなおす必要がある。もっと負荷を減らしながらできるようにしておかなくては」
「だからって、お一人では危険です」
「何、設計者の務めだ。万一に備えて、火の鳥が終わった後は自動操縦に切り替わるようにしてあるから、放っておいても基地に帰り着くよ」
格納庫内に、退避命令を示すブザーが鳴り響いた。南部は、いつも竜が座っている操縦席で、右手で操縦桿を握り、左手でエンジン出力レバーをゆっくりと押し込んだ。
●phase-3 南太平洋上空
「南部博士、赤道方面から試験空域に侵入してくる機体があります。早めに済まされた方が」
ゴッドフェニックスに、管制担当が連絡してきた。南部は、レーダーのレンジを切り替えた。近付いてくる機体がこのまま真っ直ぐ飛べば、南部の予定している飛行経路とほぼ重なる。
「よし、早速始めよう」
南部は、エンジン出力レバーを一気にレッドゾーンまで叩き込んだ。急加速でシートに押しつけられ、息が詰まった。ゴッドフェニックスは、火の鳥となって、炎の翼を広げた。
「腕が……重い」
実際に戦う時は、このままで方向を変えて敵の鉄獣目がけて突っ込むことになる。南部は、渾身の力を込めて操縦桿を倒した。操作に応じて火の鳥が羽ばたき、方向を変えた。ほとんど意識を失いかけた南部の耳に、かすかに警報が聞こえた。異常事態か、と、手探りで南部はエンジン出力レバーを引いた。途端に振動が収まり、飛行が安定する。
「南部博士、後ろから急速に接近する機体があります。このままではまずい。海に入って下さい」
「わかった」
南部は、潜水準備のボタンを押し、操縦桿を倒した。水しぶきを上げてゴッドフェニックスは海中に突っ込んだ。三日月基地が目の前だった。
「マッハ5になると、さすがに普通の戦闘機の感覚とは違うな……これから帰投する」
試験飛行を開始した途端、遙か前方で炎が揺らめいた。
「UFOか?」
宇門は叫んでいた。炎をまとった飛行物体は急速に遠ざかっていく。
「面白い……」
宇門は、ダブルスペイザーのエンジンを全開にした。それでも、レーダー上で、未確認飛行物体との距離は開いたままである。
「よし」
宇門は、補助ロケットブースターを点火した。ドン、と加速の衝撃がかかる。空力加熱で機体が赤く輝き始めた。最高速度マッハ4をあっさり突破する。
「UFOが試験飛行のパスファインダーなら不足はないな。正体を見てやる。ブースターの燃料が切れるまでに追いつければ……」
未確認飛行物体がぐんぐん近付いてくる。視認できる距離まで来て、宇門は我が目を疑った。UFOだと思った未確認飛行物体は、どう見ても、炎の翼を広げた巨大な鳥であった。
「一体なんだあれは?」
さらに距離を詰めようとしたとき、警報が鳴り響いた。両翼のエンジンが制御不能に陥ったことを、点滅する赤ランプが示していた。
「無茶しすぎたか……」
エンジン出力を下げたが、ロケットブースターがまだ出力を保っているため、なかなか減速しない。宇門は、まだ燃料が残っているブースターを切り離した。着水したブースターが、海面で炎を上げた。機体の損傷の程度がわからない状態で戻るのは危険過ぎる。どこかに不時着して何が起きたか調べなければならない。宇門は高度を下げた。前方に島が見えた。両翼のエンジンが不調では、垂直離着陸はできない。宇門は、海面すれすれを飛び、減速しながらダブルスペイザーを島に乗り上げさせ、強引に胴体着陸させた。
●phase-4 三日月珊瑚礁基地
「うーん、大したスピードだな。一体どこの機体だ?」
基地に戻った南部は、データのチェックを一通り終えた後、飛行中のレーダーの記録を再生しながら見入っていた。試験空域に入ってきた機体は、火の鳥となったゴッドフェニックスを追いかけ、その上、距離を詰めてきていた。
「南部博士、ちょっと見てください」
「何だ?」
警備担当の職員が、モニター画面を指さした。
「基地に侵入者です……正確には基地の上ですが」
「ギャラクターか?」
「まだわかりません。でも、さっき試験飛行で、ゴッドフェニックス目がけて飛んできた民間機のようです。どうやらトラブルで不時着した模様」
「不時着って、この三日月基地の上にか?」
「ええ。どうします、博士」
「三日月基地の秘密を知られたら、そのまま帰すわけにはいかん。この基地の秘密は絶対に守らねばならんのだ。何をしにきたのか探り出さないと」
「忍者隊を呼ばないんですか」
「今、彼等はここにはいない。戻るように私から連絡しておく。まずは、相手の機体の識別信号から所属を割り出し、背後関係を大至急調べてくれたまえ。あれだけの機体を開発できる組織なら、ISOの情報部が何か掴んでいるかもしれん」
●phase-5 珊瑚礁
南部は、小型潜航艇で一旦基地を離れ、海面に出てから、珊瑚礁の反対側に潜航艇をつけた。既に、日没は過ぎていた。民間機は、珊瑚礁の湾の中央部分から乗り上げて止まっていた。南部は、普段のスーツの上着の下につけたショルダーホルスターからブローニング・ハイパワーを引き抜き、安全装置を外した。基地を探ったり、基地の情報をどこかに送ったりするようなら、即座に射殺するしかなかった。南部は、そっと歩いて、不時着している機体に近付いた。
機体を一方の支柱代わりにして、タープが張られていた。その脇で、パイロットは、南部に背を向け、流木を集めてたき火をし、串に刺した魚を火の周囲に立てて焼いていた。
「そのままゆっくりこちらを向け」
南部の声に、パイロットが振り向いた。歳は取っていたが、南部はその顔に見覚えがあった。
「お前は……確か、宇門……」
南部が驚いた隙を、宇門は見逃さなかった。宇門の手が動いた。南部は、拳銃を構えた手をいきなり引っ張り上げられてよろめいた。南部の上着の裾に釣り針が掛かり、宇門が片手で釣り竿を引いていた。
「丸腰の相手に銃を突きつけてからでないと話もできないのか?十七年前とちっとも変わっとらんな」
宇門は釣り竿のリールを離した。糸が緩んで腕が自由になった南部は、釣り針を外し、安全装置をかけたあと、銃をホルスターに戻した。そのまま、たき火を挟んで、宇門と向かい合って座った。
「その恰好では、遭難しているようにも見えないが、入漁料の請求でもしにきたのか?」
宇門は、魚をひっくり返した。
十七年前、ホントワールで科学者が頻繁に行方不明になるという噂が立った。ISOに着任したばかりの南部は国際会議にかこつけて調査に向かった。ISOの情報部員からの報告を考慮すると、国境付近の山中に秘密の軍事基地があって、そこに集められている可能性が高いということがわかった。南部は、観光客を装って基地に向かった。そこで、隣国から山越えして侵入した宇門と出会うことになった。宇門の方は、シュバイラーのグループが大気圏突入させた衛星の部品の回収が目的だった。太陽電池パネルの切り離しに失敗し、太平洋に落とす筈の衛星が余計な空気抵抗のせいでホントワールの山中に落下してしまった。シュバイラーは外交ルートで交渉したが、返してもらえそうになかったため、実力行使に出たのだった。この時も、南部は武装し、宇門は丸腰だった。挙動不審な宇門を敵だと考えた南部は宇門を追い詰めようとし、宇門はトラップと相手の意表をつく行動で南部の裏をかいて、基地内に運び込まれていた部品を回収した。南部が科学者の行方の手掛かりを手に入れる前に、宇門は基地内にあった巡航ミサイルの弾頭に衛星の部品を詰めて、シュバイラーの打ち上げ基地目がけて発射した。「部品を取ってこいと言われたが、FedExで送れとは言われてない」というのが宇門の説明だった。基地は騒動になり、南部の方は情報収集どころではなくなった。南部は、仕事の邪魔をしたと宇門に文句を言った。宇門の方は平然として、南部を誘ってもう一度基地に忍び込み、情報を手に入れた後、増員された兵士と追いかけっこをした挙げ句、今度は二人乗りの戦闘機をかっぱらって、南部と一緒に国境に向かって飛んだ。しかし、途中で撃墜され、二人とも緊急脱出し、国境目がけて歩いて山越えすることになった。その時も、今と同じようにたき火を囲んで向かい合い、その辺で捕まえた野ウサギやら鳥やら蛇やらの肉を焼くことになった……。
「で、何故ここに居るのか説明してもらいたい」
「私も同じことを訊きたいと思っていたところだよ、南部博士。ISOでも有名なマントル計画の開発室長が、スーツ姿で無人島を歩いていることの方が、普通に考えれば謎だと思うが」
まさか、正直に、科学忍者隊の指揮官ですと答えるわけにもいかない。
「この機体は君のか?」
「そうだ。此処へは試験飛行で来た。ところが、途中でUFOを見た」
「UFO?」
「トランスポンダは積んでなかったし識別信号も出ていない、その上火の玉のように見えていた」
隠密行動が任務のゴッドフェニックスは、現在位置を自分から示す機能は通常は切ってある。
「それで?」
「近寄ってみたら巨大な鳥が羽ばたいているように見えた。もっとよく見ようとして追いかけたのだが、結果はこの通りだ」
「予定外の所に墜ちる癖は、十七年前と変わってないな」
「大きなお世話だ」
宇門は、南部に向かってアゴをしゃくった。
「一匹やる」
「……何?」
「良い具合に焼けてるぞ」
宇門は、串ごと魚を引き抜いてかぶりついた。魚を勧められるとは思っていなかった南部は、思わず固まった。
「一匹じゃ不満か?二匹欲しいならかまわんぞ。今日は大漁だ」
魚をほおばりながら宇門が訊いた。
仕方無く、南部は、一番手前の串を引き抜いた。そっと囓ってみると、味は悪くなかった。
「で、火の鳥を追いかけようとした理由を説明してくれ」
「羽ばたいていたからだ」
宇門の答えは簡潔だった。南部が想定していた、追いかけてきた者がギャラクターである可能性や、他の軍関係者である可能性、その他あらゆるケースは、ものの見事に否定された。
「それだけか?本当に」
「そうだ。マッハ5なんて速度は、はばたきで出せるものじゃない。航空工学の常識だろう。だから、本当にはばたいて飛んでいるのだとしたら、一体どんなメカニズムなのかを知りたいと思った。空飛ぶ円盤の飛行原理として考えられている重力場推進よりも、もっと面白いものかもしれない。ぜひ、もう一度近くで見たいものだ」
見せてたまるか、と南部は思ったが、口には出さなかった。
「で、いつまでこうしているつもりなんだ?」
「研究所に救助を要請した。明日には別の機体が迎えにくるはずだ」
「飛べるのか?」
「見ての通り、ランディングギア無しの機体で、両翼のローターで垂直離着陸するのだが、両方とも使えない。ローター部分を塞ぐ仕組みが無いままで、限界速度を越えたために、高温のプラズマが隙間から中に入り込んで、コントロール信号を伝えている光ファイバーを溶かしてしまったらしい。分解してみないとダメージの程度がわからない。しかし、中央のエンジン二つは無事だから、釣り上げてもらって、速度を合わせてから切り離せば、その後の飛行に問題はない」
「着陸はどうするんだ?」
「また不時着するか、もう一度別の機体に吊り下げてもらって減速してから切り離せば何とかなるだろう」
宇門は二匹目の魚を引き抜いた。
「そんな訳で、今日はここで一泊するしかない」
「此処をどこだと思ってるんだ!」
南部は叫んでいた。
「何をそんなに怒っているんだ?」
宇門は不思議そうに南部を見た。南部は言葉に詰まった。基地を珊瑚礁に見せかけて作ったのは南部である。本物の珊瑚礁だと勘違いしている宇門に、今更苦情を言えた立場ではなかった。
「まさか……これから取引に出かけるかのようなスーツといい……南部博士、もしかして、あなたが此処の”地主”だったのか?」
間違ってはいないが微妙に違う。
「まあ、そんなものかも……」
宇門は、ポケットからナイフを取り出し、脇の地面をそっと削った。携帯用のガスコンロに火をつけ、削った粉をナイフの刃に載せたまま近づけた。一瞬、赤い炎があがった。
「カルシウムか……。珊瑚礁の地主というのもなかなか珍しい」
本当はもっと珍しい基地の司令官なのだが、と言いたいのを南部は堪えた。自分から秘密をばらすわけにはいかない。
「ただ、今回は申し訳なかった。こちらも海に落下するわけにもいかなかったのでね。明日になれば出て行くから、今晩一晩だけここで泊めてもらえないかな」
改まって頼まれて、南部は言葉に詰まった。本当なら一刻も早く退去してもらいたいところだった。宇門は、ポケットから手帳を取り出し、挟んであった名刺を南部に手渡した。住所は日本の蓼科近くで、宇宙科学研究所、とあった。
「使用料が必要なら、そこに請求してくれれば払うつもりだ」
三日月基地の上の部分の使用料を取る、という発想は、南部には無かった。
「請求だと?金の問題だと思って……いや、何でもない」
「珊瑚礁の修繕費用までは出してもいいが、それ以上の請求をするつもりなら、こっちにしてくれ」
宇門は、手帳を開いて電話番号をメモし、そのページを破って南部に突きつけた。
「何だこれは」
「ウチの顧問弁護士の事務所だ」
「あのなあ……」
南部は溜息をついて、紙を上着のポケットに突っ込んだ。
「研究所を持ってるのか」
「宇宙人実在説を唱えたから、天文学会からは異端のレッテルを貼られた。仕方が無いから自分でやっている。電波望遠鏡や軌道を回る宇宙望遠鏡の設置と運用、探査機の打ち上げに機体開発、その他色々だ」
「自分でそれを全部か?それはまた大した道楽だな」
「ISOの予算で好きなだけ地面を掘り返しているくせに、他人の趣味に文句を言わないでもらいたい」
「掘り返しているわけではない。無公害エネルギー開発のためのマントル・プランだ」
南部は訂正した。
宇門は、食べ終わった魚を地面に置いて、立ち上がって岸に向かった。
「おい、何処へ行く?」
「顔を洗ってから寝る」
宇門は岸にしゃがんで、両手を海に突っ込んだ。そのまま動きが止まった。
南部は、半分ほど食べた魚の串を地面に突き刺し、ホルスターから銃を引き抜いた。宇門に狙いを定めたまま、立ち上がって近付いた。
「宇門……」
南部は、宇門のすぐ脇に立って、安全装置を外した。宇門はちら、と振り向き、南部を視野に入れたままで静かに言った。
「下に何かある……んだな?」
「何故わかった?」
南部が基地を出る時、照明は全て消すように命じてあった。覗きこんだところで、この暗さでは下の様子が見えるはずもない。基地のスタビライザーも完全に動作していたから、常人なら揺れを感じることはない。
「水温だ。いくら南の島だといっても、温度が高すぎる。下にばかでかい熱源があると考えるしかない」
「宇門博士、地球の平和のために働くつもりはありませんか」
「まるで、新興宗教の勧誘だな」
宇門はあからさまに溜息をついた。
「第一、銃口を突きつけながら言う台詞じゃないだろう。最近のISOは一体どういうリクルートをしているのかね?」
宇門が動いた。引き金を引こうとした瞬間、南部は手首を掴まれた。腕に関節技が決まって激痛が走る。思わず楽な態勢を取ろうとしたところをそのまま宇門に投げ飛ばされた。落下したところは海だった。
「いい加減頭を冷やせ……と言いたいところだが、まったくいい湯加減だなこの海は」
服のまま泳ぐ訓練などしていない。水を吸った服が重く、何度も沈みそうになりながら、南部は、どうにか岸に這い上がった。宇門はとっくにたき火の前に戻り、パイプを咥えて一服していた。
「十七年前はホントワールを共通の敵にしたが、今の私は信用できないのだろう?」
水をしたたらせながらたき火の前に座った南部に向かって、宇門は言った。
「その上、ちょっとでも何かを知った相手はそのまま帰すわけにはいかない、か。ISOのマントルプランの総責任者にそこまでの対応を強いるとは、余程厄介な敵を相手にしているようだな」
宇門は、タバコの灰を捨て、タープの下で横になった。
「だが、私には関係無い。私は宇宙しか見てこなかったし、ISOに目をつけられるような主流は歩いていこなかった。この下に何があろうが、私の知ったことじゃない」
宇門は目を閉じて、そのまま眠ってしまった。丸腰の上に寝ている相手を殺すわけにはいかない。南部は、びしょ濡れのまま潜航艇へと戻った。
●phase-6 三日月基地
翌朝、予告通りに北半球から飛んできた別の機体に吊り下げられて、宇門は珊瑚礁を飛び発って行った。
南部は、ISO情報部から届いた報告書を見ていた。
——宇門源蔵。両親は事業をやっている裕福な家庭に生まれ、子供の頃から数学と理科には天才肌の神童。大学進学の頃に、戦争のどさくさで両親が行方不明になる。一時期、空軍に入隊していたが、訓練が終わった頃に終戦を迎える。その後、スイスのETHのシュバイラーのところに数年間留学。一時期行方不明になるが、戻ってきてから宇宙人実在説を唱え始める。その後、日本の蓼科高原に研究所を建設、SETIを始める。研究所の設備には国家予算規模の資金が必要だが、資金源は不明。スイス留学中の関係者と思われる養子をとったが素性は不明。
別の一通は、ISOの日本支部経由で光子力研究所から取り寄せたものだった。宇門が出した研究申請の書類だった。書かれていた理論はそれ自体で矛盾は無かったが、地球上の物理学には見えなかった。
ISOの情報部が持っている情報では、宇門の身辺にギャラクターの影も形もなかった。
密かに仕込まれた監視カメラとマイクによって、昨晩、宇門がやっていたことも、南部との会話も、全て記録に取られていた。南部を前に、とことんマイペースを貫いた宇門の態度は、基地の職員と忍者隊の双方に大ウケしていた。南部が海に叩き込まれてずぶ濡れになった姿まで、ばっちりカメラが捉えていた。
「で、どう思うんです?博士」
ジョーが訊いた。
「どうもこうもない。金も技術力もあるのに世間的には不遇な扱いと受けているというのは、不満分子の条件だろう。ギャラクターに取り込まれないか警戒すべき相手だ」
南部は憮然としていた。
「ISOの情報部には、要注意人物として監視を命じた。そのうち諸君にも調査に行ってもらうかもしれない」
「本当にその必要があるんですか?一旦逃がした相手でしょう?」
「何を言うんだ、ジョー!ここが基地だということをバラされたら、我々は敗北するんだぞ!」
「じゃあ何でその場で拘束しなかったんです?」
「何をどこまで知っているか、判断がつきかねた。それに、相手の弱みを先にこっちが握れば、それなりに使えるかもしれない。大体昔だって……」
十七年前、ホントワール国境近くの基地に潜入した南部は、宇門の好き勝手な行動に振り回される羽目になった。結果として任務には成功したが、南部が立てた計画も作戦もほとんど実行できなかった。緻密なプランをアンダーソンに説明してからでかけた南部は、事の顛末の報告に苦労することになった。
——基地内で先に進む入り口の候補が3つあって、2つはカギが開いていて1つは閉まっていた。南部は、開いている方が陽動だと考えて、わざわざ閉まっている方を開けて入ったのだが、宇門は南部の行動を読んだ上で、カギを閉めた方のドアの向こうにトラップを仕掛けていたので、南部は見事に引っ掛かった。一事が万事この調子だったのだ——
南部は、眉にしわを寄せて、窓の外に拡がる海を見つめた。その背後で、昨日の監視カメラの映像が性懲りもなく繰り返し再生されていた。
※何で南部博士の武器にブローニング・ハイパワーをあてがったかというと、装弾数が多いから。 7発とか 8発のコルト・ガバメントに比べると、標準で13発ってのは、弾丸ばらまきたがる南部君向けかな、と。
Recently:
- 「UFOロボグレンダイザー たとえ我が命つきるとも」攻略終了
- グレンダイザーU、宇門博士のステータス下げすぎでは?
- Fallout 1st加入した
- Fallout 76
- CSI:マイアミ
- Answers to Antonella Belli’s questions
- コミックマーケット参加終了
- エルデンリング攻略メモ
- 31話 林所員の移動速度が凄いw
- twitter botの復活を試みていろいろと嵌まる
>裕川さん
お疲れさまでした。そしてコラボフィク応援隊ありがとうございました。
なかなか次のフィクに繋がるポイントが有って 面白いです。で、海水温度にしたわけやね。基地が有るのが解った理由。わたしゃ顔突っ込んで 突き飛ばしたかったぜ(笑)
南部君より宇門パパの方が強かったんだ。あれほどアクションやるのにさぁ。宇門パパの方が一枚も二枚も上手ってのが私にはツボだわ(笑)
一つだけ私と違うと思った部分・・・
なんでジョーなわけ?(笑)ジョーファンの裕川さんらしいけど(^^;)
健ちゃん、きっと 隠れて肩揺すって笑ってるだろうな。ビデオ見て(笑)
って事で、お馬鹿なフィクにおつきあいありがとうございました(*^_^*)
お二人のラブラブな(?)コラボ小説、お疲れ様でしたー!!
全部読ませて頂きました(^^)これで二人の仲が悪い(?)理由が判りましたよ。あんな変なイラストのおかげで、こんな楽しい小説が読めるとは!嬉しい限り!
細かい部分まで設定されてあって、とても面白かったです!にしても・・宇門博士強い!!強くてカッコイイ!!南部博士のいつも一枚上手を行く辺り、ルパン三世を彷彿とさせますね!自由人ぽくて。ルパンと・・南部博士は《五右衛門》?(笑)
17年前の事件、「部品を取ってこいと言われたが、FedExで送れとは言われてない」のセリフは痛快でした!
今回南部博士は散々な目に合わされましたが、次回は宇門博士をあっと言わせてやってください!
笑っている健ちゃんが目に浮かぶー(^^;)
Reeさん、
>基地が有るのが解った理由。
基地かどうかは、宇門博士は知らない、って話です。うすうすは感づいたかもしれないけど見てないから、下にあるのが基地か工場かそれとも別の何かなのかは、宇門博士にとっては確定しないままです。さすがに、基地だ、と確定させてしまったら、南部君としてもそのまま宇門博士を帰すわけにはいかないでしょう。書いていて悩んだところです。で、時間を夜にして、明かりを消して、水温だけで気づく、ということに。
>南部君より宇門パパの方が強かったんだ。あれほどアクションやるのにさぁ。宇門パパの方が一枚も二枚も上手ってのが私にはツボだわ(笑)
銃撃戦だとか射撃の腕は圧倒的に南部君が上だと思うんだけど、丸腰で何とかすることになったら、平気でそのへんにあるものを使う宇門博士の方が柔軟に対応するだろう、っていうイメージです。それなりに訓練通りというか定石通りに動く南部君と、意表をつくことばっかりして最後に結果だけはしっかり出す宇門博士、という感じ。組織内で地位と権力を手にして、ある程度計画的というか計略によって動いている南部君と、宇宙なんか相手にする在野の人で打ち上げてからなんとかして帳尻合わせする羽目になるようなことばっかり経験している宇門博士の違い、みたいな感じですかね。
だから、同じ事件に遭遇しても対応がまるで違うことになる。最初に情報部を投入して情報収集し、戦略を立てて、場合によっては国連軍も指揮しながら動く南部君と、とりあえず自分で現場でどうにかするしかない宇門博士(スパイになれそうな部下もいないし)ですから。
ホントワール潜入フィクを先にやるつもりだったんだけど、間に合いそうになかったので後回しになりました。
>なんでジョーなわけ?
そりゃ、どっちかというと南部博士に文句をいうツッコミ役が必要だったからジョーになったわけで。報告役なら健ですよ。
あたるさん、
宇門博士がルパン三世なら、南部博士はどっちかというと次元大介の方じゃないですかね。
あと、不時着してるスペイザーを見た南部君が「FedExで送り返してやろうか?」と問いかけるという案もあったんですがオミット。
健は困ってると思いますよ。大笑いしたいんだけど、展開が展開だけに笑うと南部博士の眉間のしわが増えそうで、後が怖いから笑えない。
まあ、宇門博士も自分の仕事が大事な人だし、地球のために何かしなきゃってのは、ベガ星が来てから後付けで考え始めたことでしょう。十数年も前から計画立てて親友の家庭まで犠牲にした南部君に比べれば、それなりにおおらかというか出たとこ勝負でやってるんじゃないですかね。デュークとグレンダイザーがやってきたって、こっそり確保しただけで、それ以上将来の危難に備えて何かしておこうとは思ってなかったみたいだし。
試しに今回のフィクで2人を会わせてみたんですが、南部博士の方が出し抜く話というのは書くのがなかなか大変かもしれないです。南部博士って、権威と権力の両方持ってて物量まで投入できるわけで、同じ地球人相手なら勝ってあたりまえのポジションの人でしょ。書いてみた感じでは、自分のペースで動いてなおかつ出し抜く宇門博士の方が規格を外れてるんだな、と。