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絆 5

by Ree


 キキィィー!
 研究所の玄関にジープを横付けし、ひかると夕子は研究所に走り込んできた。
「夕子さん、危ないからここで待っていて」
 と応接室を指さし、ひかるは観測室に向かって走っていった。
「あっ待って! ひかるさん、待ってよ!」
 夕子は、何が起きているのかわからない。応接室に入っては見たが、不安で落ち着かなかった。
 (やっぱり行ってみよう……)と夕子は、そっと応接室を抜け出し、観測室へ向かった。
 
 
 キュィィーン
 観測室のドアが開き、ひかるが入ってきた。
 メインスクリーンに円盤獣とグレンダイザーが戦っているのが見えた。
 (大介さん……頑張って……)
 ひかるは指を組み、目を伏せて無事を祈った。
 虎型円盤獣は、爪からミサイルを飛ばして来た。それを辛くも避け、スピンソーサーで反撃したが、円盤獣は、前足でたたき落とした。
 メルトシャワーを発射。が、円盤獣はすばしっこく逃げた。
 観測室の全員が、メインスクリーンに釘付けとなった。
 そんな中、夕子が観測室の扉を開けた。
 が、誰も気がつかなかった。
 (あっ!……)
 夕子は驚いた。驚きのあまり声が出ない。大きなスクリーンに怪獣の様な生き物と、円盤の様な物が入れ混じって動いていたのだ。
 夕子は、後ずさりしながらも、扉の外からそっと様子をうかがっていた。
 
 虎型円盤獣の角が光り、咆哮とともに火炎ビームを発射した。
 グレンダイザーは、かろうじて交わした。
「ううっ……」
 突然大介が右腕を押さえてうなり出す。
「大介!ベガトロン放射能だ!逃げろ!逃げるんだ!」
 宇門は、大声で叫んだ!
 (え?大介さん?あれは大介さんなの?)
 夕子はもう何がなんだかわからなかった。
「う……父さん……大丈夫です。最後まで戦います」
 モニタに映った大介が右腕を押さえながら応える。
「駄目だ!大介!帰還しろ!」
 宇門は叫んだ!
 (大介さん……)ひかるは祈りながらつぶやく……
「所長、今大介君が帰還したら誰がヤツを倒すんです?無理です!何とか阻止してもらわねば……」
 佐伯所員は、冷静に宇門に話した。
 宇門は、頭を垂れ、拳を握りしめ、わなないていた。
「ヤツには、空中戦は効かない。接近戦で戦います」
 大介はそう言うと頭上のレバーを引いた。
「止めろ!大介!」
「ダイザーGO!」
 グレンダイザーは、虎型円盤獣の前に降り立った。
「スクリュークラッシャーパンチ!」
 が、円盤獣はすばしっこく逃げる。
 逃げながら咆哮をあげ、火炎ビームを発射してきた。
 辛くも避ける。
「う……」
 モニタの大介は、腕を押さえて唸っている。
「危ない!」
 宇門は、叫んだ。
 その隙に虎型円盤獣はグレンダイザーに襲いかかってきた。
 グレンダイザーを押し倒して上からのしかかり、グレンダイザーの顔に向かって火炎ビームを発射した。
「うわぁぁぁー!」
 大介が腕を押さえて叫んだ。
「大介—!」
 宇門には、もうどうしようもなかった。
「ぐわぁぁぁー!」
 大介の叫び声が観測室に響き渡る。
「大介さん!」ひかるも大声を上げた。
「は・反重力ストーム!」
 大介は脳天まで突き抜ける激痛に耐えながら、スイッチを入れる。
 虎型円盤獣は吹き上げられた。が、宙返りをしながら着地した。
 コックピットモニタでは、腕を押さえながら肩で息をし、あえいでいる大介が見えた。
 何とかグレンダイザーを立ち上がらせようとしたそのとき、円盤獣が体当たりしてきた。その勢いで、グレンダイザーは吹っ飛んで、岩盤に突っ込んだ。
 モニタに映る大介は、前のめりに倒れ込んで動かない。
「大介!起きろ!起きるんだ!」
 宇門の声に大介はよろよろと体を起こした。が、起こしただけで荒い息づかいのまま目を伏せている。頭部と胸部を強打した所為で、頭からドクドクと血が滴り落ちてきた。
 すかさず円盤獣がまたのしかかってきて、火炎ビームを顔に発射する。
「ぐはっ!……」
 大介がまた前のめりに倒れた。
 動かないグレンダイザーの頭を円盤獣は、おもちゃの様に右へ左へと殴打する。そして火炎ビームを放射する。
「……ス・ピン・ソーサー……」大介は、スペイザーのスイッチを入れた。
 虎型円盤獣の背中に当たり、のけぞった。
 グレンダイザーは、その隙を見て逃げだし、立ち上がろうとした。が、またも突進され、吹き飛ばされる。そしてまた上にのしかかり、火炎ビームを発射していた。
 大介の体を激痛が突き抜ける。グレンダイザーシステムの操縦者の危険を知らせるアラームが、黄色の点滅に変わる。だんだん意識が遠のいてくる。が、かろうじて踏ん張っていた。
 (……負けるものか……負けるものか……)ただその一念でなんとか意識を保っていた。
 
 
 キキキィィー!
 甲児のジープが、グレンダイザーと円盤獣の前方に到着した。
「はっ!大介さん!」
「ちくしょー!なんて事しやがるんだ!待ってろよ!大介さん!今サイクロンビームをお見舞いしてやるぜ!」
 甲児は、ジープの荷台に飛び移り、サイクロン砲を操作仕始めた。
 円盤獣は角を光らせて、火炎ビームを発射していた。
「あれは?よし、あの角を狙えば……」
 甲児は、焦点を絞った。
「行くぞ!サイクロンビーム!」
 ヒュンヒュンヒュン、ズバババーーン!
 サイクロンビームは、見事円盤獣の角を砕いた。
 円盤獣は、頭を押さえ、藻掻いていた。
「やった!へへーんだ!甲児様の威力を見たかー!」
「い・今だ……」
 大介は、霞む目で、ショルダーブーメランを発射した。
 バシュン!バシュン! 虎型円盤獣の両腕が切断された。
 円盤獣がのたうち回る。
 大介は、すかさず、もうほとんど感覚はなく動かない右腕を無理矢理伸ばし、スペースサンダーをぶち込んだ。
 稲光が走り、円盤獣に命中した。
 バッシューン!ズババババーーーン!
 円盤獣は、吹き飛んだ。
 大介は、はぁと息を吐き、意識を解放した。そして体勢を崩し前のめりに倒れ込んだ。
「大介!大介!しっかりしろ!おい!」
 大介の返答はなかった。
「大介さん!しっかりして!」ひかるは悲壮な声で叫んだ。
 
 グレンダイザーのアラームが、黄色から赤に変わった。グレンダイザーが自動操縦に変わる。
 ピコン!
 観測室では、グレンダイザーのモニタパネルに、グレンダイザーが自動操縦に変わった事を知らせた。
「よし!誘導電波発射せよ」
 はい。と林所員は、スイッチを入れた。
 宇門は、インターホンのスイッチを入れ、
「医療班!グレンダイザーが帰還する。すぐに格納庫に急行せよ」
 ふう……とため息をつき、宇門は椅子に座り込んだ。そして瞑目した。
 
「所長……大介さんと何があったのですか?」
 おそるおそる佐伯所員は、宇門に聞いた。
「……」
「所長……言いにくいのはわかりますが、今後こんなことがあると我々も、どうしていいのかわかりません……」
「我々では、力になれませんか?」
 その言葉に、はっと宇門は佐伯所員の顔を見上げた。
 そしてまたため息をつき、静かに瞑目しながら話を始めた。
「……大介は……あいつは、腕の傷が悪化していたのを、わしに隠していたんだ」
「隠しているだけならまだいい。昨日も一晩中ずっと激痛を我慢していたらしい。わしがそばに居たにも関わらずだ。……昨日は客が来ていたし、わしにも気を遣ったのだろう。馬鹿だよ。我慢しすぎて腕が動かなくなった。どうしようもなくて、朝一番にドクターのところに駆け込んだというわけだ」
 一同は、固唾をのんだ。
「今日、ドクターから呼び出しがあったのは、そのことだったのだ」
「絶対安静と言われていたのに、大介は平気な顔をして、わしたちの前に顔を出した。それに腹を立てたわしは……」
「考えてみれば大介は、みんなにとっては唯一の砦だ。自分が元気じゃないと所員達も不安になる。自分が大丈夫だと言えば、みんなが安心すると思っているのだ」
「だから何も言わない。いや、言えない。一人ですべて背負っているのだ……」
「わしは、そんな大介の気持ちも考えず、怒鳴り散らして、挙げ句の果てに手をあげた……」
「ふふ……笑ってくれてかまわんよ。わしは、とんだ父親だ……」
 ピッピッピッ!
「グレンダイザーが、帰還しました。今、格納庫にて定位置に異動中です」
「医療班!停止次第、救出作業開始。完了後、直ちに集中治療室に搬送してくれたまえ」
 宇門は、インターホンに向かって指示を出した。
「所長……大介君に伝えてください……我々は、すでに覚悟もできている。非力だけど、共に戦う仲間のつもりだと……」
 佐伯所員は、まっすぐ宇門を見つめ、熱いまなざしで応えた。
 うん。と他の所員も頷く。
 ひかるは、大粒の涙がこぼれるのもいとわず、宇門の肩を優しく抱き、静かに瞑目した。
 (大介さん。私もあなたの力になりたい……もう女の子は、卒業だわ……)
 ひかるは、自分の力で立って歩けるようになりたい。そしていつか一緒に……と願うのだった。
「みんなありがとう」
 肩に置かれた、ひかるの手を握り、
「大介も一人ではないのだと……みんなが居ることをわかって欲しいのだ……」
 
「こちら医療班。救出完了。これより集中治療室に搬送します」
「わかった」
 宇門は、スイッチを切ると、慌てて走り出した。
 入口の扉の隅に、ぺちゃっと座り込んで、目を真っ赤にしている夕子を見つけた。
 一瞬目が合ったが、そのまま集中治療室に向かってまた全速力で走り出した。
 ひかるも涙を拭き、走り出したが、夕子を見つけ、
「夕子さん……どうしてここへ……」
 ひかるは足を止めた。
 夕子は、まっすぐひかるの目を見つめ、
「早く行って!」
 とひかるを促した。
「……ごめんなさい……」
 と言いながら走り去った。
 しばらく呆然としていた夕子だったが、やがてよろよろと立ち上がり、打ちひしがれたようにその場を後にした。
 
 集中治療室の前のエレベーターで宇門はいらいらと到着を待ちかまえた。
 チンッ
 エレベーターのドアが開いた。
 ストレッチャーに乗せられて、やってきた大介は、酸素マスクを装着されて弱々しく呼吸していた。
 顔半面血だらけで、意識はなく、上半身裸の胸には、あっちこっち強打による内出血が見られ、右腕は、二の腕はもとより、肘から下も赤黒く腫れ上がり痛々しくて凝視できないくらいだった。
 思わず宇門は、ストレッチャーに寄りかかり、
「大介!大介!」と呼んだ。
 宇門はストレッチャーと共に異動しながら、何度も何度も名前を呼んだ。
 その声に反応したのか、大介は片方の目だけを少し開けた。
 左指を少し動かし、
「……父・さん……」
 と、小さな……小さな声でつぶやいた。
「わかるか?大介!」
 左指が、宇門の服の袖を少しだけ引っ張った。
「……」
 何かを言おうとしているが、聞き取れない。
「もういい! 今は何も言うな」
 宇門がそういうと、また袖を引っ張った。
 何か言いたいのだろうと、大介の口元へ耳を当てた。
「……」
 (!……)
 宇門は絶句して立ち止まった。
 大介を乗せたストレッチャーは集中治療室へと入っていった。
 宇門は、入口で呆然としていた。
「所長!早く来てください!」
 中でドクターが呼んだ。
 宇門は、慌てて中へ飛び込んだ。
 治療台に移された大介が荒い息の下から、うわごとの様に何かを言おうとしていた。
 宇門は、大介の手を握り、大丈夫!大丈夫だから……心配するな。と言った。
 それを確認した大介は、少しだけ微笑み、意識を手放した……
 
 
 観測室に甲児が飛び込んできた。
「大介さんは?」
 甲児は、ぜいぜいと息を切らし、体を折り曲げて、膝に手を当てながら聞いた。
「あっ!甲児君!……大介君は、今集中治療室だ」
 林所員が応えたが、皆一同心配そうな面もちだった。
「大丈夫なのか?」
 息を整えながら、甲児が聞いたが、誰も答えなかった。
「今、所長とひかるさんが行ってる」
「そっか……きっと大丈夫さ!あいつは不死身さ……」
 所員一同は、顔を見合わせた。
「何?なんなんだ?」
 甲児は、なんだか違う空気が漂っているようで訳が分からなかった。
「そう言えば今日、はなっから様子がおかしかったよな。なんかあったのか?」
 所員達は、ふーっとため息をつき、一様に顔を見合わせた。
「我々が勝手に話していいものかどうか……」
「でも、甲児君が一番大介君の力になれる人だからな……」
 実は……と所員達は、甲児に先ほど聞いた話を説明した。
 
 
 ひかるは、集中治療室の外で祈りながら待っていた。
 中では、ドクターと宇門がてきぱきと治療を行っていた。
 頭部裂傷と胸部打撲により肋骨を2本骨折。
 後は、右腕の古傷の悪化だった。
「う〜む。ひどいな……こんな腕でよく戦えるもんだ。拷問を受けているようなもんだな。よし、放射線治療を行おう。一息にと言う訳にはいかないが、何回かに分けて叩こう……しかし……」
「……所長、放射線治療をしても完治は出来ませんよ。ただ悪化を押さえるだけです。大介君の体の事を考えたら、今切断した方がいいと思いますがね……」
「……」
 宇門は、答えられなかった。
「もうあまり猶予はありませんよ。こんな戦い方していたら……」
「命があってこそ……じゃないですか?」
 ドクターは宇門を説得するように話した。
「……わかっています……私も出来ればそうしたい……命には代えられないと思っています」
「……だが本人が納得しないでしょう。……大介は、それを極端に恐れている……」
「今日、私が怒りに任せて、切断すると断言してしまったんです」
「だから……だからさっきも、それを心配して、うわごとの様に何度も私に頼んだんです。切らないでくれ……って……」
「多分、今度こんな事があったら無理矢理切断されてしまうと思ったのでしょう。かわいそうに……」
「確かに切断すれば、彼の命は助かるかもしれない……そうなると、もう戦うことは出来ない」
「戦わなくていいのなら、それほど大介も思い詰めることもなかったでしょうが……でも、戦う者は自分しかいない。それをわかっていて戦いを放棄する事は……多分、大介にとっては命を落とすことより辛いことなんです」
「何もかも全部一人で背負って、ぎりぎりのところで踏ん張ってるんですよ」
「もし、今切断してしまったら……多分命は救えても、心は……切断されてしまう……」
「そんな大介に私は、ひどいことを言ってしまったんです……」
 宇門は、悲壮な思いを話した。
「大介は、私がその判断を下すために苦悩するだろうと思ったからこそ、なるべく私に内緒にしていたんだと思います……」
 しばしの沈黙の後、
「彼は、大国の王子として育ったのですから、自分の事より人の事を優先する事を、当たり前の様に教育を受けて来たんでしょう……だから……自分の運命をすべて受け入れ、それでも向かって行こうとしているのだと思うのです」
 宇門は、意識のない大介の顔を見ながら、両手で大介の左手を握りしめた。
「悲しい運命ですな……」
 ドクターも悲痛な面もちで頷いていた。
 
 
 フッ。集中治療室のランプが消えた。
 ひかるは慌ててドアの前に立った。
 しばらくして宇門がため息をつきながら出てきた。
「おじさまっ!大介さんは?」
 ひかるは必死だった。
「おお……ひかる君。すまなかったね。大介は大丈夫だ。今は眠っているよ」
 宇門は、ひかるに安堵の顔を見せ、微笑みながら説明した。
 ひかるは、大粒の涙を流しながら、
「よかった……よかったわ……」
 宇門は、ひかるを抱き寄せ、よしよしと頭をなでた。
「おじさま。大介さんの側に行ってもいいですか?」
 と切なそうな顔をして聞いた。
「ああ、いいよ。側に付いていてやってくれるかい?ああ見えて、大介は寂しがりやだからな。ひかる君が側にいると安心すると思うよ」
 ふふふっと宇門が笑った。
「ありがとうございます。おじさま!」
 ひかるは、満面の笑みを浮かべ中へ入っていった。
 
「所長!」
 宇門が観測室に入ると、所員や甲児が心配そうに側に飛んできた。
「あぁみんな、心配かけたね。もう大丈夫だよ。しばらくは動けないだろうが、すぐに元気になるさ」
 あぁよかったー!と一様にみんな椅子に座り込んだ。
「ああ、甲児君。今日は大活躍だったね。君のおかげで大介は命を落とさずにすんだ。本当にありがとう」
 宇門は、甲児の功績を讃えた。
「いやぁ、あれくらい軽いもんっすよ!いつだって俺がすっとんで行って敵を倒してやりますよ!」
「あはは!甲児君は頼もしいね」
 あはは!宇門の笑い声に、一同もあははと声をあげて笑った。
「甲児君。実はね、新しい戦闘機を考えてるんだよ」
「え?戦闘機ですか?」
 甲児は、きょとんとした。
「君のサイクロン砲を搭載したいと考えているんだ。協力してもらえないかね?」
「協力も何も、サイクロン砲を積み込めるなんて凄いじゃないですかぁ。任してくださいよ!あっ?俺の円盤……」
「今日みたいに、ぎりぎりの戦いではいずれ負ける時が来る。グレンダイザーの欠点をサポート出来る戦闘機を今開発中なんだ。君にもこのプロジェクトに参加してもらおう。よろしく」
「やったー!なんだかガンガンやる気がわいてきたぜっ!よし!やるぞー!」
 甲児は、ガッツポーズをしてみせた。
「あはは!さすが甲児君だ!」
「さてと、わしは所長室にいるから、何かあったら知らせてくれ」
 そう言って宇門は、観測室を後にした。
 所長室に入ると、どっと疲れが出てきて、ソファの長椅子に横になった。
 しばらくいろいろ考えていたが、やがて意識が遠のいていった。

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