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証 1

by Ree


 

 さらさらさら……
 秋風に、落ち葉が弄ばれながら舞い散っていった。
 もうしばらくすれば冬がやってくる。ここ、シラカバ牧場は冬支度で慌ただしい毎日を送っていた。
 ダダッー!ダダダダッー! ハーッ!ハイヨーッ!
 乳牛たちが牧草地を走り運動をしていた。毎日の日課である。
 牧葉団兵衛と宇門大介は馬にまたがり、牛たちが列を乱さないように監視をしながら追いたてていた。
「それー!」
 団兵衛は群を離れようとした乳牛に投げ縄を放ち、無理矢理引っ張り方向を変えた。
 大介は、後方から牛たちを追い込んでいた。
「こらー!大介!列が乱れとるぞ!しっかり見張らんか!」
 団兵衛に怒鳴られて、大介は前方の牛を追いたてた。
「ばっかもーん!後ろが乱れとるぞ!さっさとしろ!」
 大介は、また団兵衛の怒鳴り声で後方に移動した。
 団兵衛の怒鳴り声を耳にした牧葉ひかるは、慌てて団兵衛のところに駆け寄ってきた。
「お父さん!大介さん、ちゃんとやってるじゃない。何八つ当たりしてんのよ!」
「なんじゃとー?八つ当たりとはなんだ。わしは大介をびしっと指導してるんじゃ!サボってばかりで、あんな半人前、わしがきっちり教えんと全然使いもんにならんわい!」
 団兵衛は、馬上で腕組みをしながら大介の様子を伺っていた。
「何言ってんのよ。さぼってるのはお父さんでしょ。見てないで一緒に追い込んだらどうなのよ!全く……」
 そう言ってひかるは、あきれた顔で団兵衛に食ってかかった。
「何をいっとる!わしは、ここで監視しとるんじゃ!ええーい!うるさい!こら大介ー!もっと機敏に動かんか!」
 団兵衛に怒鳴られながら、大介は右往左往していた。
「お父さんったらもう!」
 ひかるは腕組みをして、ふくれっ面をした。
「おじさーん!そろそろ牛舎に入れていいですかぁ?」
 大介は、馬を走らせながら団兵衛に大声で問いかけた。
「おおー!入れていいぞ!しっかり見張って追い込むんじゃぞ!」
 団兵衛は、馬上で腕組みをしながら大介の行動を監視していた。
「はーっ!」
 大介は、牛の列の前、横、後ろと慌ただしく走り回りながら牛舎に牛を追い込んでいった。
 牛たちが牛舎の前に集まると大介は馬を降り、牛を一頭ずつ所定の檻に入れていった。
「結局大介さんが一人でやってるんじゃないの!お父さんはさぼってただけじゃない!全くもぉ!」
「大介さーん、私も手伝うわ!」
 そう言ってひかるは、牛舎の方に走り出していった。
「待てー!」
 走り出したひかるに向かって、団兵衛は投げ縄を放った。
「きゃー!何すんのよ!お父さん!」
 ロープで引っ張られたひかるは、頭に来て団兵衛に怒鳴った。
「ばっかもーん!何が大介さーんじゃ!あれほど言ってるのに、お前はまだわからんか!大介には近づくなって言ってるじゃろが!」
 ロープを引っ張りながら、団兵衛が馬を降りて近づいてきた。
「何よ、二人でやった方が早く片づくでしょ!もう、お父さんったらいい加減にしてよね!」
 そう言いながらひかるは、ロープを巻き付けられたまま歩き出し、団兵衛を無理矢理引きずっていった。
「ばっかもーん!」
 団兵衛は、ひかるに引きずられながら抵抗していた。
「あはは!」
 その様子を見ていた大介は、大声で笑った。
「何がおかしいんだ!」
 大介に笑われて頭に来た団兵衛は、また怒鳴った。
「大介!大体あの追い方はなんだ?えぇ?もっとしゃきっと出来んのか!」
 団兵衛は片手にロープを持ち、大介を指さし怒鳴った。
「すみません、おじさん」
 大介は、面目なさそうに笑いながら頭をかいた。
「大介さん、謝らなくていいわよ!お父さんが悪いんだから!」
 ひかるは、ロープに縛られながら大介に近づいた。
「こりゃ!ひかる、なんで大介の肩を持つんだ!わしはお前の父親だぞ!」
 団兵衛はひかるに向かって怒鳴った。
「お父さん!何言ってるのよ!もう!」
 ロープを解きながら、ひかるは頭に来て団兵衛に怒鳴った。
「まあまあ、ひかるさん、いいじゃないか」
 大介は、ふくれっ面のひかるを制した。
「ばっかもーん!大介!ひかるに近づくなと言ってるじゃろが!」
 団兵衛は、また大介に怒鳴った。
「大介!罰として牛の手入れを一人でやれっ!いいか!一人でだぞ!」
「お父さん!なんの罰なのよ。 大介さんが何をしたって言うのよ!いい加減にしないと、本当に怒るわよ!」
 ひかるの怒りは、頂点に達した様だった。
「まあまあ、ひかるさん。ここは僕がやるから、ひかるさんは馬小屋をお願いするよ」
 大介は、微笑みながらひかるをなだめた。
「そうじゃ!ひかる、わしと一緒に馬の手入れをしよう。なっ!」
 団兵衛は、ひかるの顔色を伺いながら、ひかるの背を押した。
「何よ。お父さんと一緒じゃ面白くないわよ!」
 ひかるはふくれっ面のまま馬小屋に走っていった。
「ひかるー!待ってくれー!」
 団兵衛は、叫びながら走り出した。
「ははは!」
 大介が笑うと、団兵衛は振り返って大介を睨み、馬小屋へと消えていった。
 やれやれとため息をつきながら、大介は牛の手入れをはじめた。
 馬小屋で馬たちをブラッシングしながら、ひかるは団兵衛に問いかけた。
「お父さん、なんで大介さんに、あんなに文句ばかり言うのよ。全く……」
「何を言う!大介は、あれでも宇門先生の息子なんだぞ。いずれはこの牧場の共同経営者になるんだ。わしがびしっと教えてやらなきゃ、先が思いやられるわい!なのに、いつもへらへら笑ってるばかりで、何を考えてるのかちーともわからん。日本男児というのはな、やんちゃなぐらいが丁度いいんじゃ。あんなぼーっとした青二才、性根を叩き直さねばどうにもならんわい」
「なによ、お父さん、そんなこと考えてたの?」
「それにな、この間もススキが原飛行場で、お前達が危ない目に遭ってるってのに、助けに行ってもくれん! バスが宇宙船に吸い込まれたときだって、甲児君が居たから助かったようなものの、大介はなーんの役にも立たん」
 団兵衛はブラシを持つ手を止めて、腕組みをして憤慨してみせた。
「そんなこと言ったって、甲児君みたいに大介さんが円盤に乗れる訳じゃないんだから、仕方ないじゃない」
 ひかるは忙しくブラシを動かしながら、団兵衛に言い返した。
「少しは見込みがあると思っとったがな、最近はなんだかんだ言って、すぐどっかへ行ってさぼる。ありゃきっと甲児君に焼き餅焼いてるのかもしれんな。どう考えたって甲児君の方が、宇門先生の息子にふさわしいじゃろうが」
「そう言えば、最近大介さんよく居なくなるわね。研究所の方が忙しいのかしら?」
 ひかるも不思議そうな顔をした。
「大体、宇門先生もなんであんな男を息子にしたのか……」
「え?どういう意味?」
 ひかるは、団兵衛が言った意味がわからなかった。
「いや、宇門先生は立派なお人なのに、息子は何を考えてるんだか、ぷらぷらと中途半端に牧場の手伝いをやっとる。甲児君みたいなガッツのあるヤツが息子だったら良かったのに。わしは宇門先生の事を思うと情けないわい」
「お父さん、無茶苦茶なこと言わないでよ、全くもう。大介さんは牧場の仕事をちゃんとやってるじゃないの。甲児君とは違うんだから、比べたらかわいそうでしょ。お父さんこそ、UFO、UFOって、さぼってばかりじゃない」
 ひかるは腰に手を当て、団兵衛に向かって小言を言い出した。
「い?いや……あの、それはだな……わしは宇宙にロマンを求めているのだ。甲児君も円盤に乗ってロマンを追い求めておる。宇門先生もロマンを追い求めて研究所を作った。男という者は常にロマンを追い求めるものなのだ。おぉ宇宙よ、広大な宇宙よ〜」
 団兵衛は、手を広げて大げさにジェスチャーをして見せた。
「だがのぉ、大介にはロマンのかけらもない。ただ牧場で遊んでるだけで、あやつには夢のかけらも見あたらんわい」
「お父さん、自分と考え方が違うからって大介さんを馬鹿にすること無いじゃない。大介さんには大介さんの考えがあるんだから!」
 ひかるは団兵衛に向かって、口を尖らせて文句を言った。
「ほぉ?大介にどんな夢があるのか、お前は知っているのか?ええ?」
 今度は、団兵衛がひかるに向かって、口を尖らせて応戦した。
「え?そりゃ私だって知らないけど……でもきっと大きな夢を持ってるに違いないわよ」
「ひかる、いい加減にしろ。いっつもそうやって大介の肩を持つ。あんな男の何処がいいんじゃ!」
 今度は、団兵衛がひかるに意見し出した。
「し・知らないわよ!もう!」
 そう言ってひかるは、ぷいっとそっぽを向き、それ以上話はしなかった。
 ひかると団兵衛が、そんな話をしているとはつゆ知らず、大介は一人黙々と牛の手入れをしていた。
 ピーッピーッピーッ
 かすかにアラーム音が聞こえた。それはバギーに取り付けてある無線のコール音だった。
 大介は慌てて手を止め、外に停めてあるバギーに走っていき、無線のマイクを手にした。
「はい、大介です」
「大介、円盤獣が大気圏に近づいている。すぐ研究所に来てくれ」
 無線の相手は、大介の父、宇門源蔵だった。
「はい、わかりました。すぐ行きます」
 大介は無線のスイッチを切ると、慌ててバギーにまたがり、エンジンを吹かしながら研究所に向かった。
 バキューン バキューン
「あら?大介さんのバギーの音だわ」
 ひかると団兵衛が慌てて外に飛び出すと、大介がバギーで走っていくのが見えた。
「こらー!大介、何処へ行く!牛の世話はどうしたんじゃ!おーい!」
 団兵衛が大声で大介を呼び止めたが、大介は走り去っていった。
「大介さん、どうしたのかしら?」
 ひかるは心配そうな顔で、大介の走り去った後も、その残像を眺めていた。
「あいつ、また仕事をほっぽりだして出て行きおったな!牛の世話一つ満足に出来んのじゃから!今度戻ってきたら、きつーいお灸を据えてやるからな!」
 団兵衛は、頭から湯気が出そうなほど怒りを露わにしていた。

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