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絆 3

by Ree


 宇門が研究所に着くと、玄関脇にバギーが置いてあった。
「ん?大介は、牧場に行ったんじゃなかったのかな?」
 また甲児君に付き合っているんだろうと思った。
 ウイイーン
 観測室に入ると、山田所員と佐伯所員が朝のデータチェックをしていた。
「おはよう。みんな早いね」
 二人が振り返り、
「おはようございます、所長」
 と元気よく挨拶した。
「問題はないかね?」
「はい。今のところ異常はありません」
 と、佐伯所員が応えた。
「大介がこっちへ来ているようなんだが……また甲児君と一緒なのかね?」
 宇門は所員達に聞いてみた。
「いえ?まだ姿を見てませんよ? それに甲児君は今仮眠室で爆睡中ですよ。いやぁもう昨日は付き合わされちゃって大変でしたよ」
 佐伯所員は、頭に手を乗せて、笑いながら話した。
「大介も一緒だったのかね?」
「いえ?私と甲児君の二人だけでしたよ?」
 きょとんとした顔で佐伯所員は応えた。
 おかしいな?と宇門は怪訝な顔をした。
 プップップッ
 内線電話のコールが鳴った。
「はい、観測室。……はい……わかりました」
 山田所員が電話の応対に出た。
「所長、診療室からですが、ちょっと来て欲しいそうです」
 ああ……わかった。そう言って、所員にあれこれ指示を出してから、診療室に向かった。
 
 
 ウィィーン
 宇門が診療室に入ると、デスクにドクターが座っていた。
「ドクター、何かあったのですか?」
「いやすみませんな、お呼び立てして」
 ドクターの様子が少しおかしかった。
「いえ、実は朝早くから大介君がやってきましてね」
 え?宇門の顔つきが変わった。
「腕が動かないと言って、治療をお願いしますって……今そちらの部屋で眠ってるんですがね」
 びっくりした宇門は、ガラスのスクリーンで仕切られた奥の部屋を覗いた。
 右腕には包帯が巻かれ、点滴を受けて寝ている大介がいた。
 宇門はスクリーンの扉を開けて大介の側に行き、彼の顔をのぞき込んだ。
 疲れているような顔だったが、落ち着いたのか呼吸も安定し静かに眠っていた。
 (自宅に一緒にいたのに、なぜわしに言わなかったのだ?)
 宇門はなぜだ?とつぶやいた。
 大介を起こさないようにそっとスクリーンの扉を閉め、ドクターからカルテを受け取った。
「実は、ここ最近、治療器による治療が頻繁になってきましてね」
 (え?何だって?頻繁?)
 宇門は耳を疑った。
「所長には言わないでくれって頼まれてたんですがね。悪化の進行が早まってきた様なので、言わないわけにはいかないと思いましてね」
 ドクターは申し訳ないと言う顔つきだった。
「で、容態は?」
 宇門はカルテをぱらぱらとめくりながら聞いた。
「今回は、長時間、激痛を我慢していたんでしょうな。ショック症状が出たようです」
「ベガトロン放射能を浴びた細胞が隣の細胞を侵し、発作の度に放射能を浴びた細胞が拡大していってる状態ですから、その拡大が早まっている。と言うわけです。その所為で、筋肉組織にも悪影響が出て、今日の様に腕が動かなくなったりするのです。最近はちょっとした拍子にでも発作が起きやすくなっている様ですな。なるべく腕は動かさず、安静にしておいた方がいい。さもないと……」
 ドクターは最後の言葉は濁した。
 宇門はカルテを診ながら目をみはった。
 (なんと言うことだ……一緒にいながら気がつかなかった……)
「大介は最近どれくらいのペースでドクターにお世話になっていたのですか?」
「だいたい4日ぐらいの間隔で来てますなぁ。大した治療じゃないから所長を呼ばなくてもいいでしょうって」
 (そんなに頻繁に?)
 治療器による治療は、約二週間のペースであったが、すべて自分がやっているつもりだった。
「治療が終わると大介君は、決まって所長には言わないでくれと念を押すんです。そういうわけにはいかないと言ったんですがね」
 と、ドクターはため息をついた。
「これ以上よくならないのはわかってますから。それでなくても忙しい父さんに、これ以上心配かけたくない。余計な気を使わせたくないって言ってましたよ」
 宇門はめまいがした……
 迂闊だった……わしは大介の何をみていたのだ? と宇門は自分をなじった。
 しばらくの沈黙の後、
「ドクター、大介をよろしくお願いします。このまましばらく寝かせてやってください。後で私が話をしますから」
 わかりました。と言って宇門からカルテを受け取った。
 宇門は診療室を後にし、廊下にでたが足を止め、床の一点を見つめ拳を強く握りしめた。そして一言、大介……とつぶやいた。
 しばらく立ち止まっていたが、やがて決心したかの様に前を向き、観測室へと向かった。
 
 
 小一時間ほどして、点滴もはずれた大介が目を覚ました。
 (う〜ん……)
 腕の痛みも体のだるさもなくなり、すっきりした気分だった。
 右腕を動かしてみた。問題なく動いた。
 (よかった……治ったみたいだな……)
 大介は起きあがった。
 するとドクターが慌てて入ってきた。
「大介君、駄目だ。まだ起きあがっちゃいかん。当分は安静だ。今は治療した後で、治まっているだけなんだ。今動けば、すぐにまた発作が起きるぞ!」
 ドクターは大介を押さえつけた。
「ドクター、ありがとうございました。もうすっかり元気になりました。もう大丈夫です」
 そういって大介は立ち上がろうとした。
「だめだ!まだ動いてはいかんぞ!」
 凄い剣幕でドクターが大介を制した。
「ドクター、申し訳ありません。こんなところで寝てるわけにはいきません。僕が寝込んでいたらみんなが不安になる……」
「大介君、君は自分の事がわかっていない様だな。いいか!腕の傷はもうかなり悪化してるんだぞ。これ以上悪くなれば……腕を切断しなくちゃならないんだぞ」
 ドクターは大介に言い放った。
 大介は目を伏せて左手で右腕をつかんだ。
 しばしの沈黙の後、静かな声で、
「大丈夫です。絶対そうはなりません。迷惑かけて申し訳ありません……」
 大介はドクターに頭を下げた。
 ドクターは大介にそう言われて返す言葉か見つからなかった。
「いいかね。当分の間、右腕は動かしてはいけない。少しでも痛みが出ればすぐに治療する事。それだけは絶対守ってくれ。いいね!」
 ドクターはきつく大介に言い聞かせた。
 わかりました。と大介は頷いた。
 ドクターは棚からテーピングテープを取り出し、右腕を丁寧にテーピングした。
 そして上着を着込んだ大介の右腕を三角巾で固定した。
「少し不自由だが、仕方がない。我慢するんだな……」
「はい……ありがとうございました」
 大介はスクリーンで仕切られた部屋を出て、診療室を出るとき、ドクターにもう一度頭を下げた。
 
 
 夕子は、迎えの大介を待っていた。
 が、いくら待っても大介は来ないので、通りの道まで歩いていくと、馬車が一台来るのが見えた。
「はれぇ〜きれーなねえちゃん」
 馬車に乗っていた恰幅のいい青年は、4色の国旗の様な服を着て、牛乳のボトルを積んでいた。
「あ……こ・こんにちは」
 夕子は、少し驚きながらも微笑んだ。
 青年は見かけに寄らず、饒舌で人なつっこく話してきた。
 警戒心をすっかり無くした夕子は、彼が街まで牛乳を届けに行くと言うので、研究所まで乗せていってもらう事にした。
 
 馬車を降りて一礼した夕子は、研究所の入り口に入ると、警備員に呼び止められた。
「あれ?あなたは昨日の……確か所長のお客様でしたよね」
 警備員は、きれいな人だったので覚えていた。
 夕子は、にっこりと微笑み、
「えぇ、平井夕子と言います。昨日は、先生宅に泊めていただいたんです。あの……入ってもかまいませんか?」
「そうだったんですか。所長宅へお泊まりに……」
「あっ どうぞ、どうぞ。所長は多分観測室か所長室にいるはずですから」
 きれいな人ににっこりほほえまれて、悪い気がする人は一人もいない。
 警備員は、所長宅に泊まるくらいの仲ならばかまわないだろうと、簡単に彼女を通してしまった。
 夕子は、ありがとうございます。と振り返りながら深々と頭を下げて歩いていった。
 
 
 観測室では、佐伯所員、山田所員がメインコンピュータから送られてくるデータのチェックをしていた。
 宇門は、一番中央の席に座り、難しい顔をしてメインスクリーンを眺めていた。
 ウィィィーン
 観測室の自動扉が開き、右手をポケットに突っ込んで大介が入ってきた。
「やぁ、大介君」と山田所員が声をかけた。
 はっ!と宇門が振り返った。
「みなさんご苦労様です。何か変わったことはありませんか?」
 そういいながら笑顔で、宇門の側までやってきた。
 宇門は、慌てて立ち上がり、
「大介!ちょっと来なさい。話がある」
 と怒鳴って、入り口に向かって歩き出した。
「あれ?父さん、なんだかご機嫌斜めだな」
 大介は左手で頭を掻いた。
「さっさときなさい!」
 また声を荒げ、観測室を出ていった。
「僕、何か悪いことしたっけ? 佐伯さん知ってます?」
「いえ、私は何も知りませんが、なんだか先ほどから上の空の様な感じでしたね」
 と、佐伯所員。
「そうだなぁ、診療室から戻って来てから機嫌が悪そうでしたけど」
 と、山田所員。
 (え?診療室?あっ!)
 大介の顔色が変わった。そして慌てて宇門の後を追った。
 
 入れ違いに夕子が観測室に入ってきた。
「こ・んにちは……」
 夕子は、所員達におそるおそる声をかけた。
「あれ?あなたは昨日の?」
 山田所員は、夕子の姿に驚いていた。
「すみません〜 申し訳ないんですが、ここは部外者立ち入り禁止なんですよ」
 佐伯所員は夕子に優しく説明した。
「ご・ごめんなさい……あの先生は……?」
 夕子はいるべき場所ではないことを察し、宇門の事を聞いた。
「ああ、所長は今大介さんにお説教してるところですよ。多分所長室にいるんじゃないかな?」
 と山田所員は少しオーバーに説明した。
「え?……大介さん、何かしたんですか?」
 夕子は、宇門が声を荒げている姿は想像出来なかった。
「いやぁ普段はそういうことは滅多にないんですがね。今日はどうもかなり怒ってる様でしたよ。あれはよっぽど何かあったのかもしれないなぁ……大介君、びびってましたからねぇ」
 佐伯所員は顎に手をかけ頭をひねっていた。
「そうですか……じゃ、失礼します」
 夕子は、深々と頭を下げ、観測室を出ていった。
 (先生と大介さんが喧嘩?もしかして私の事じゃないかしら? 今日、大介さん、迎えに来てくれなかったし……大介さんからすれば、私は嫌な女よね?……大介さんが私のことを何か言って、それで先生がお怒りになってるのでは……)
 夕子は邪推し、いても立ってもいられずに、所長室に向かった。
 
 
 コンコン
 大介は青ざめた顔で、所長室をノックした。
「さっさと入りたまえ!」
 所長室のデスクに座ったまま宇門は怒鳴った。
 大介は、左手でノブを回しそっと扉を開けた。
 部屋に入ると、宇門がデスクで頭を抱えていた。
 大介は、おそるおそるデスクの前まで歩いていき、
「父さん……・すみませんでした」
 と深々と頭を下げた。
 宇門は、少し頭をもたげ、上目遣いに大介を睨んだ。
「なにがだね? 何を謝っているのだ?」
「いえ……あの……すみません……」
 大介は、宇門と目を合わせるのが気まずくて、視線を横に向けた。
「だから 何を謝っているのだ?」
 宇門は立ち上がり、サイドにある応接セットの一人掛け用ソファに座った。
「そこに座りたまえ」
 そういわれても大介は動けなかった。
 宇門は、座ったまま大介を直視し、
「ドクターが言ったはずだ。しばらくは動くなと」
「……」
「安静にしてろと言わなかったのか?と聞いておるのだ」
「……」
「……すみませんでした……」
 もう一度大介は深々と頭を下げて謝った。
 ふぅ……と宇門はため息をつき、ソファに体を沈めた。
「そこに座りなさい」
 宇門は、今度は落ち着いた声でそういった。
 大介は、おずおずと3人掛けのソファに、右腕をかばいながら座った。
「まだ痛むのかね?」
 宇門は心配そうに言った。
「いえ。もう全然……大丈夫です」
 大介は努めて明るく話した。
「ドクターが右腕を使うなって……もうガチガチにテーピングされちゃってて……全く大げさなんですから……あはは」
 と大介は、左手で頭を掻いて空笑いした。
 ダン!「ばかもん!」
 宇門は前のめりになって、拳でテーブルを叩き、大介を大声で叱りとばした。その声は廊下まで響いていた。そしてその声は夕子の耳にも届いた。
「お前はまだわかってないのか?」
「いいかよく聞け!」と宇門は前のめりになって大介を見据えた。
「ドクターの言ったことは、大げさでも何でもない。だからこそわしを呼んだのだ」
 大介は横を向き、視線を反らせた。
「これ以上悪化すれば、その腕を切断するしかないんだぞ!」
「わかってるのか!?」
 宇門は、また大声で怒鳴った。
「そんなことにはなりません。大丈夫です」
 大介も宇門を直視し、大声で応えた。
「何が大丈夫だと言うのだ!?そのときが来たら、わしは躊躇いなく切るぞ!たとえお前が嫌だといってもな!」
 宇門はまた前のめりになって怒鳴った。
 大介は、目を見開いて顔を引きつらせていた。やがて目を伏せ、頭を垂れた。
「……それだけは……」
 大介は右腕を左手で押さえながら、小さな声で宇門に訴えた。
 しばしの沈黙の後、
「大介……お前だけの体じゃないんだぞ!」
 宇門はソファにもたれかけ、目頭を指で押さえた。
「大丈夫です。ちゃんと自分に与えられた使命だけは果たします。敵を倒すまでは立派に生きてみせます!」
 大介は真っ直ぐな目を宇門に向けた。
 そして大介は立ち上がって宇門に言い放った。
「たとえどうなろうと、僕は戦います。絶対に負けません」
「絶対に!……差し違えてでもベガ大王を倒します。……なに、ここに到着するまでに死んでいたか、後少し先で死ぬかの違いです。大差ありません。大丈夫、この体はそれまで……それまで保てば充分です」
 (なっ?……)
 バッチィィーン!
 突然宇門が立ち上がり思いっきり大介の頬を平手打ちした。
「なぜ?なぜもっと自分を大事にせんのだ?……それまでの命とは……」
「なんて言いぐさなんだ!」
 宇門は、大介の胸ぐらを掴んで語尾を荒げた。
 大介は宇門の視線に耐えられず横を向いていた。
「……すみ・ませんでした……」
 胸ぐらを締め付けられながら、大介は小さい声でそういった。
「……」
 ばっ! 宇門は言うべき言葉が見つからず手を離した。その拍子に大介はよろよろとよろけた。
「……大介……」
 宇門は呆然と立ちつくし、涙を浮かべていた。そして後ろを向き、
「大介……わしはそんなに頼りないか?」
 (え?……)
 大介は宇門の背中を凝視した。
「わしは……お前に何もしてやれない……父親とはよく言ったものだな……」
 宇門の肩が震えていた。
 (……違う……)
 大介は、宇門の背中に向かって頭を振った。
「……父さん……すみません……」
 宇門の肩に手を掛けようとしたが、テーピングしている所為で、右手が上がらなかった。
 そして後ろを向き、目を伏せて、
「……父さん……僕こそ……僕こそ、そんな思いを父さんにさせてしまって……」
 大介も肩を震わせていた。
「僕は……父さんにそんな思いだけはさせたくなくて……でも結果的には同じだ!」
 ばっ!と大介はドアに向かって走り出し、思いっきりドアを開けた。
「きゃ!」
 ドアの外には夕子がいて、大介の姿を見て怯えていた。
 大介は驚いて夕子を凝視した。
「待てっ!大介!待つんだ!」
 宇門が、大介を引き留めようと迫ってきた。
 が、大介は慌てて走り去っていった。
「大介!」
 大声で叫んだが、大介は行ってしまった後だった。
 宇門は夕子に気がつかなかったのか、気がつかないそぶりをしたのか、部屋に戻り、ソファに座り込み頭を抱えた。
 夕子は、ただ驚いていた。宇門が取り乱すところを初めてみた気がした。
 しばらくその場に立ちつくしていた夕子だったが、少しずつ歩み寄り、そして宇門の隣に座った。
「先生……大丈夫ですか?」
 前のめりになって頭を抱えている宇門に、夕子は優しく問いかけた。
 宇門は、無言だった。
 やがて、ため息をつき頭を上げた。
「……いや……」
 宇門は、またため息をつき、深呼吸をしてから、
「……とんだところを見られてしまった様だね……なに、ちょっとした親子喧嘩だよ。気にしないでくれたまえ」
 そういって、宇門は立ち上がり、デスクからパイプを取り出し、火を付けた。
 そして窓辺に立ち、パイプを吹かしながら、何を見るでなく外を眺めた。
 夕子は、そんな宇門の様子をずっと眺めていた。
 
 しばらく外を眺めていると、ひかるがやってくるのが見えた。
 (そうだ……)
 宇門は、内線のスイッチを入れ、警備員に連絡を入れた。
「ひかるくんが来た様だが、所長室まで来るように言ってくれないか?」
 と、警備員に頼んだ。
 しばらくすると……
 コンコン!
「おじさま、ひかるです」
「あぁ入りたまえ」
 と、ひかるを招き入れた。
 ひかるが中に入ると、応接セットにきれいな女の人が座っていた。
 宇門は、紹介しよう。と言って、ひかるをソファに座らせた。
 夕子は、にっこりと微笑んだ。
「彼女は、昔の教え子の妹さんで、平井夕子君だ」
 と、ひかるに説明し、
「夕子君。彼女は、ひかる君と言って、牧場を経営してもらっている牧葉さんのお嬢さんなんだよ」
 と、夕子に説明した。
「牧葉ひかるです。よろしく」
 と、立ち上がって頭を下げて挨拶をした。
 こちらこそよろしく。と夕子も笑顔で挨拶をした。
「ひかる君。何か用事だったのかね?」
 宇門は、優しく問いかけた。
「あぁ……今日、大介さんが来なかったから、どうしたのかな?って思って……牛乳の配達もあったし、ちょっと寄ってみたんだけど……」
 と、ひかるは少し心配そうに尋ねた。
「おぉ、そりゃすまんね。大介は、今日ちょっと取り込んでて……」
 と、宇門は言葉を濁した。
「甲児君ね!昨日からそればっかりなんだから……大介さんがいないと、仕事がはかどらなくて……今度は絶対甲児君にも仕事手伝ってもらうんだから。もう!」
 と、ひかるはふくれっ面をしてみせた。
 ははは! 宇門は、とりあえず甲児の所為にしておこうと思った。
 宇門は、ひかるの明るさに救われる気がした。
 夕子は、お茶目なひかるが、とても気に入っていた。
「ひかる君。もし何も他に用事がないのなら、すまんが夕子君を牧場に案内してもらえないかね?」
 宇門は、笑顔でひかるに頼んだ。
「ええ、いいですよ。そうだ、新しく子犬が来たんですよ。きっと夕子さんも気に入ると思うわ」
 と、ひかるは応えた。
「ああ……ひかる君に似た、美人の子犬の事だね?」
 ふふふ。と笑いながら宇門が言うと、
「まぁ、大介さんね?おじさまに変なこと吹き込んだのは!もうっ!」
 ひかるは、またふくれっ面をしてみせた。
 ははは!じゃ、お願いするよ。と宇門は笑顔をみせた。
 じゃ、夕子さん行きましょう。と夕子を伴って出かけていった。
 部屋で一人になった宇門は、ふぅ、とため息をつきながらソファに深々と座った。

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