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証 5

by Ree


 

 しばらくすると、ひかるが手に包み紙を持ってやってきた。
「大介さん、ごめんなさい。お父さんが意地悪ばかり……おにぎり持ってきたわ」
「あぁありがとう。でもいいのかい?おじさんに見つかったらまた怒鳴られるよ」
「大丈夫よ。お父さん、今お昼寝してるから」
 そう言って、干し草の上に腰を下ろした。
 大介も手を止めて側に座ったが、肩の痛みが止まらず、そっと手で押さえた。
 ひかるはおしぼりを渡し、包み紙を開けた。
「あぁ、これは美味そうだ。そう言えば昨日から何も食べてなかったんだ。ありがとう」
 そう言って大介はおにぎりをほおばった。
「え?大介さん、昨日から何も食べてなかったの?」
「え?あっ……いや、ちょっとバタバタしちゃって……うん、美味い!ひかるさんのおにぎりは最高だね」
 そう言って、大介はひかるに微笑んだ。
 ひかるは大介に誉められて、頬を赤らめながら笑った。
 美味い、美味いと言いながら美味しそうに食べる大介の顔を眺めていたひかるは、幸せを感じていた。
 ひかるは、水筒に入れたお茶をコップに移し、大介に渡した。
「ねぇ大介さん」
「ん?」
「大介さんの夢は何?」
「夢?夢かぁ……あまり考えたこと無いけど……地球の平和かな」
「え?それって自分の夢じゃないじゃない……そんなんじゃなくて、自分がやりたいことってあるでしょ?」
「うーん、自分がやりたいことか……この牧場でずーっと働ければいいなって思ってる」
「えー?そんな事なのぉ?それって今と同じじゃない。そんなのおかしいじゃない。それって夢なの?」
「え?僕おかしいこと言った?」
「おかしいわよ。大介さんならもっと大きな夢を持ってると思ったわ」
「大きな夢?う〜ん。牧場でずーっと平和に生活出来ればって思ってるけど……それっておかしいのかい?」
「おかしいわよ!あー!大介さん、私をからかってるのね。子供だと思って馬鹿にしてるんでしょ!」
「おぃ、ひかるさん、怒ったの?ごめん。僕、気に障ること言った?」
 大介は、ひかるが急に怒り出した訳が分からなかった。
「もういいわよ。大介さんって本当にロマンのかけらも無いのね」
 そう言ってひかるは立ち上がった。
「ごめん、ごめん。僕が悪かった。今度までに考えておくよ。自分の夢を……」
「もういいわよ!どうせ私なんか相手にしないんでしょ」
 そう言うと持ってきた荷物をまとめてプイッと出ていってしまった。
(ふぅ……僕ってそんなにおかしいのかな?おじさんに怒られ、ひかるさんに怒られ……)
 大介は溜息ばかりついていた。
 休んでいてはまた団兵衛に怒鳴られるだろうと、大介は腰を上げた。肩はまたキリリと痛み出していた。

 コッコッ、バンッ!
 ひかるは、ふくれっ面をしながら台所のドアを思いっきり閉めた。
(もう、大介さんって全然ロマンチストじゃ無いんだから!)
 ドアの閉まる大きな音で、団兵衛は目が覚めた。
「ありゃ?なんじゃ?ひかるか?」
 団兵衛は慌てて台所へ入っていった。
「ひかる?ひかるちゃん?何をそんなに怒ってるのよ?」
 団兵衛がひかるの顔を見ると、かなり虫の居所が悪るい様で一瞬怯んだ。
「なんでもないわよ!ふんっだ!」
 ひかるは、団兵衛の顔を見て悪態をついた。
「ひかるちゃん、どうしたのよ?」
 そう言いながらテーブルを見ると、水筒が目についた。
「ひかる、大介に何か持っていったのかい?」
「知らないわよ。大介さんなんって!」
「さてはひかる、大介と何かあったな?」
「何もないわよ!何もないから腹が立つんじゃない!もう!お父さんは黙ってて!」
 ひかるはピシャっと言い放った。
(くっそー、やはり原因は大介だな!)
 団兵衛はまた腹が立って、慌てて馬小屋に走っていった。
「やい!大介!」
 団兵衛は大介の顔を見るなり怒鳴った。
「はい?」
 大介は団兵衛がいきなり怒ってきたので、訳が分からなかった。
「お前、ひかるに何をした?」
「え?何もしてませんけど……」
 大介は、きょとんとした顔で団兵衛を眺めた。
「そりゃ何もないからっ腹が立つって……バンッ!ドン!って!いや……要するに、ひかるが怒ってるのよ!お前の所為だろ!」
「え?ひかるさん、そんなに怒ってるんですか?」
「そんなにって……やはりお前の所為だな!」
「す・すいません……」
 大介は、また自分が間の悪いことをしたのだろうと団兵衛に謝った。
「うー!許さーん!今日という今日は、もう絶対に許さんぞ!」
「すいません、おじさん……」
 大介は訳が分からず謝るだけ謝った。
「うー!大介!ついて来い!」
「え?馬の手入れはいいんですか?」
「煩いっ!黙ってついて来ればいいんだ!」
 団兵衛の目は座っていた。そして小屋を出て行った。
 大介は、どうしたものかと考えあぐねていた。
「さっさとこんか!」
 団兵衛は、小屋の外から大声で怒鳴った。
「はい……」
 大介は、渋々団兵衛についていくしかなかった。
 自宅の裏庭まで行くと、団兵衛は振り返った。
「大介、この薪を全部割って薪小屋に入れるんだ。いいか、今日中に全部やるんだぞ」
「え?今日中にですか?」
 大介は、大きく山積みした薪を眺めて躊躇した。どう考えても二日はかかる。
「なんだ?文句あるのか?」
「あっ、いえ……」
「さっさとやらんか!」
 大介は斧をとりだし、一本ずつ薪を割り出した。
(今日、早く帰ってグレンダイザーの整備をやらなきゃならないんだけど……これはどうあってもおじさんは許してくれないだろう……困ったな……)
 大介はそう思いながらも斧を振り上げ薪を割っていった。
 カツン カツン
大介の薪割りの音が、辺りに響いていた。音が少しでも途切れようものなら、団兵衛の罵声が飛んで来るのだ。
 そうやって一時間ほど薪割りをしていると、肩はズキズキと痛み、手はしびれて斧が思うように動かせなくなった。
 そこへひかるが心配してやってきた。
「大介さん、大丈夫?少し休憩したら?」
「あぁ、ひかるさん。さっきはごめん。なんだか凄く悪いことしちゃったみたいで……」
 そう言いながら手を止めて、そっと肩を押さえた。
「え?お父さんがまた何か言ったの?」
「いや……あの、ひかるさんが僕の所為で凄く怒ってるって……」
 そう言いながら、大介はその場に座り込んだ。
「あっ!ごめんなさい。あれは私が悪いの。もしかしてお父さん、その事で大介さんに怒ってるの?」
「いや、どうやら僕はおじさんを怒らせることばかりしている様だ。ははは」
 大介は、笑いながらも肩を押さえていた。
「私、お父さんに文句行って来る!」
 そう言ってひかるは走り出そうとしたが、大介が制した。
「いや、いいよ。これ以上怒らせたくないし……それよりこれを早く終わらせないと……」
 そう言って立ち上がろうとすると、眩暈がして膝をついてしまった。
「大介さん、大丈夫?これを終わらせるって、ここの薪全部なの?こんなのどう考えても一日や二日で出来ないわよ。私やっぱりお父さんに文句言ってくる!」
 そう言ってひかるが走り出そうとすると、団兵衛がまた櫓の上から大声で怒鳴った。
「大介!何をサボってるんだ。さっさとやらんかー!」
 大介はそう叫ばれて、仕方なく斧を杖変わりにして立ち上がった。そしてまた斧を振り上げた。
「お父さん、いい加減にしてよ!なんでそんなに大介さんに無理言うのよ」
 ひかるは櫓を見上げ、団兵衛に意見し出した。
「大介は、お前を怒らせた罰じゃい!今度という今度はぜーったい大介を許さーん!」
「あれは私が悪いのよ。私が勝手に怒ったのよ。大介さんは何も悪く無いんだから!いい加減にしてよ!」
 ヒューン ヒューン
 二人が言い争っているところに、甲児がTFOでやってきた。
「おお?甲児君、ご帰還かねー!」
 団兵衛は、櫓から手を振った。
 TFOから降りた甲児は、頭に包帯を巻いていた。
「ありゃりゃ、甲児君、そりゃ名誉の負傷かね?」
「あはは!ちょっとドジっちゃって」
 甲児は、頭をかきながら大声で笑った。
「ふむふむ、感心なヤツじゃ!自分の手柄をちーともひけらかさん。それに比べて大介は……うー!アヤツは何の役にもたたん!」
 団兵衛は腕を組み頷いていた。
「お父さん、いい加減にしてよ。早く大介さん止めさせてよ!」
「駄目といったら駄目じゃー!」
「え?大介さん来てるの?」
 甲児は驚いた。
「甲児君、お父さんに言ってやってよ。大介さん、朝から休みなしで、お父さんに怒鳴られっぱなしで仕事してるのよ。その上お昼ご飯まで抜きだなんてひどすぎるわよ」
「え?朝からずーっと働いてるの?」
 甲児は、それはいくらなんでも働き過ぎだろうと思った。昨日の戦闘はかなり手こずった上、長時間に及んだ。サポートだけの自分ですら、今日の昼まで爆睡していたくらいだ。
「何を言っとる!だいたい昨日は仕事をほっぽり出してしまうし、今朝は遅刻する。わしが目を離すとすぐにサボる。頼んだ仕事も満足に出きん。あんなヤツ、わしが根性叩き直してやらねば、どうしようもないわいっ!」
 団兵衛は、ひかるに絶対駄目だと念を押した。
「大介さんは?」
 甲児は、心配になって聞いた。
「自宅の裏で薪割りやってるわ。お父さんったら全部やれって。そんなの一日や二日で出来ない量よ。大介さん、随分疲れてるみたいなの。お願いよ、甲児君。お父さんの事はいいから、大介さんを止めてよ」
 ひかるは、甲児にすがって頼んだ。
「わかった」
 甲児は、慌てて大介の処へ走っていった。
「大介さん、あんた何やってんだよ!」
 甲児は、いきなり大声で声を掛けた。
「やあ、甲児君。怪我はもういいのかい?」
 大介は、手を止めて振り返った。
「ああ……いや、俺のことなんてどうでもいい。大介さん、あんた無茶しすぎだ」
「大丈夫だよ。ここのところ仕事を抜け出すことが多かったからね。だからおじさん達に迷惑掛けてるんだ。少しでも頑張らないと……」
 そう言って大介はまた斧を振り上げた。が、力が入らず、よろけて斧は空を切った。
「全然大丈夫じゃないじゃないか!」
「ああ、少し休憩するよ」
 そう言って大介は、溜息をつきながら座り込んだ。そしてまた肩を押さえた。
「こぉらー!大介!休むんじゃない!」
 団兵衛は、櫓の上から叫んだ。
「はいはい……よいしょっと……」
 大介は無理矢理立ち上がり、また斧を振り上げた。
「何で休んでるのがわかるんだ?あの頑固おやじ!」
 ガツッ!
「ああ、音でわかるから……」
 ガツッ!
 大介は、手を止めずに薪を割り続けた。
「くっそー!俺が文句言ってやる!」
 甲児が走り出そうとすると、
「甲児君、いいよ。僕が悪いんだし……君がなんか言ったら、また余計怒鳴られそうだ」
「でもこれ全部って、朝までかかっても終わらないぜ?」
 ガツッ!
「ああ、そうだな。全部は無理だな……でも出来るところまでやるよ。どちらにせよ、冬支度の為にしなきゃならないからね」
 ガツッ!
「大介さん……」
 甲児は、これ以上大介を説得するのは無理だと思い、その場を去った。
「甲児君、どうだった?」
 ひかるが側にやってきた。
「ああ、ごめん。大介さんも頑固だからなぁ。何とかおじさんを説得しないと……」
 甲児は、どうしたものかと考えていた。
(所長に相談してみるか……)
 甲児はTFOに乗り込み、無線機のスイッチを入れた。
「所長、こちら甲児です」
「あぁ、甲児君。今どこかね?」
「え?あぁ、今シラカバ牧場なんですが……」
「まだ大介はそこに居るのかね?無線で呼んでるんだが、スイッチを切られてしまってね」
「大介さんは居るんですけど……それが、おじさんが凄く怒ってて、このところちょくちょく抜け出すのが原因らしいんですけどね。朝からずーっと休みなしで働かされてるみたいなんです」
「うーん。大介は、夕べも明け方までグレンダイザーの整備を手伝ってたらしくて、殆ど休んでないんだ」
「え?なんですって?それなのにあんなに仕事してるんっすか?大介さん、もうふらふらしてましたよ。ひかるさんや俺が言っても、大介さんは聞き入れないんだ。自分が悪いからって……おじさんは、おじさんで、絶対許さんって大介さんを見張ってるんですよ。所長、何とかなりませんか?このままだと大介さん、まいっちまう……」
「わかった。すぐにそっちへ行く」
「お願いします」
 ふぅ、甲児は溜息をつきながら無線のスイッチを切った。
 TFOを降りて外にでると、また団兵衛が怒鳴っていた。
「大介!手を止めるんじゃない!働けー!」
「ええーい!あの頑固おやじめっ!」
 甲児は、足元の土を蹴って悪態をついた。

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