パーソナルツール
現在位置: 戴き物 / / 証 4

証 4

by Ree


 

 シラカバ牧場は、慌ただしく朝の仕事が始まっていた。
 乳牛たちの搾乳もほぼ終わる頃、大介はバギーでやってきた。
「おはようございます。すいません、遅くなりました」
 大介は、頭をかきながら慌てて搾乳を手伝った。
「遅いわよ!大介さん。お父さん、さっきからお冠なんだから……」
ひかるは、搾り立ての牛乳を入れたボトルを積み込みながら大介に文句を言った。
「ごめん、ごめん、ひかるさん。それ僕がやるから……」
 大介はそう言うと、ボトルを荷車に積み込んだ。
「こぉらぁ〜!大介!お前何やってたんだ!」
 牛小屋から出てきた団兵衛は、大介の顔を見るなり怒鳴り込んで来た。
「あっ、おじさん、おはようございます。すいません、遅くなりました」
 大介は作業の手を止め、団兵衛に向かって頭を下げた。
「ばっかもーん!昨日は仕事をほっぽりだして行ってしまうし、今日は遅刻するし、お前やる気あんのか?あぁ?」
 団兵衛は頭から湯気が出るくらい大介に怒鳴った。
「おじさん、すいませんでした」
 大介は、何度も頭を下げて謝った。
「謝ればそれで済むと思っとるのか?えぇ?大体なんだ最近のお前は、全くやる気がないじゃないか!牧場の仕事を嘗めてるのか?」
「そんなことはありません、あの、一生懸命頑張ります」
 大介は、なんとか団兵衛の怒りを収めてもらおうと謝り続けた。
「大体お前は……」
「お父さん!もういいじゃないの!大介さんも反省してるんだし、それに早く牛乳を届けないと今度はお父さんが遅刻するわよ!」
 ひかるは、あまりにも団兵衛が怒鳴るので横やりを入れた。
「い?あ?わかった、それじゃ行って来るぞ!大介!お前、干し草の裁断をやっとけ!いいか、わしが戻るまでに全部やっとけよ!わかったか!」
 団兵衛は馬車に乗り、大介に向かってまた怒鳴った。
「わかりました。おじさん、気を付けて」
「お前に言われんでもわかっとるわいっ!」
 団兵衛はまた声をあげ馬車を走らせた。
「ふぅ、ひかるさん、ありがとう。助かったよ」
 大介は、頭をかきながらひかるに礼を言った。
「もう、お父さんはいつも大介さんに厳しいんだから……でも、大介さん最近よく出かけるわね。研究所の仕事が忙しいの?」
 ひかるは、大介に尋ねた。
「うん?あぁ……そうなんだ。あっ、早く干し草の裁断しないと、またおじさんの雷が落ちそうだ。ははは……」
 大介は、そう言うと慌てて干し草の裁断を始めた。
 
 食堂で山本達整備班が雑談をしながら食事をしていると、宇門がやってきた。
「あぁ、おはよう。徹夜の作業ご苦労だったねぇ。進み具合はどんなものかね?」
そう言うと宇門は、山本の前にコーヒーを手にして座った。
「あぁ所長、おはようございます。なんとか目処がつきましたよ。大体未知の金属ですからねぇ。大介君が率先してやってくれるおかげで、なんとか進んでますよ」
「大介が?あいつはずっと居たのかね?」
 宇門は、山本に尋ねた。
「ええ、先ほどまで一緒でしたよ。我々に任せて休めって言ったんですがね。自分の所為で迷惑掛けてるからって、そればかりで……かなり疲れてたんでしょう。明け方爆睡してましたよ」
「ったく……あれほど無理するなって言っておいたのに、それじゃ身体の傷も治るはずがない……」
 宇門は、頭を抱えた。
「え?大介君、怪我してたんですか?そんな風には見えなかったなぁ……」
 整備班の一人が横から話しかけた。
「いや、大した傷じゃ無いんだが、二・三日はまだ痛むだろう。で、大介は仮眠室かね?」
「それが……慌てて牧場へ飛んでいきましたよ」
「え?なんだって?」
 宇門は、驚いて顔を上げた。
「今日は休めって言ったんですがねぇ。昨日も仕事を放り出して来たので、団兵衛さんが怒ってるだろうからって……」
「ふぅ……団さんが……彼には大介の事を話してないからねぇ」
 宇門は、どうしたものかと考えあぐねた。
「こんな事続けてたら、大介君まいってしまいますよ」
「ああ、わかってる……」
 宇門は、そう言って席を立った。

 休む間もなく、大介は干し草の裁断をやっていた。シラカバ牧場は、まだオートメーション化していないため、手で押し切りを動かして裁断しなければならない。
 大介は一時間ほど裁断をしていると、急に肩の傷が疼いてきた。大介は手を止め、肩の傷をそっと押さえて溜息をついた。
 ピィピィピィ
 バギーの無線のコールが聞こえた。
 大介は慌ててバギーまで走っていき、マイクを手にした。
「はい、大介です」
「大介、すぐに仕事を止めて研究所に帰ってきなさい」
「またベガ星連合軍が現れたのですか?」
「いや、そうじゃない。そんなに無理するもんじゃない。今すぐに帰ってきなさい」
「はは……父さん、大丈夫ですよ。心配いりません」
「何が大丈夫なのだ!さっさと帰ってきなさい。いいね」
「父さん……すいません、今は帰れません……」
「大介、いい加減……」
 大介は無線のスイッチを切った。
(すいません……父さん)
 大介は溜息をつくと、そこへ団兵衛が帰ってきた。
「大介!もう裁断は終わったのか?」
「いえ……後少しです」
「ばっかもーん。わしが帰るまでに全部やっとけって言っただろ!なのに何遊んでるんだ!気合いがたらーん!」
 団兵衛は、また怒鳴り散らした。
「すいません、後少しで終わりますから……」
「だったら早くやらんかいっ!ったくもう……」
 大介は慌てて裁断場所まで走っていき、押し切りを動かした。
 三十分程すると、やっと裁断作業が終了した。裁断した干し草をサイロの横まで一輪車で何度も運び、山積みにした。
 その様子を櫓から眺めていた団兵衛はまた叫んだ。
「大介!終わったら牛の手入れだ。昨日さぼったんだからな、今日はちゃんとまじめにやるんだぞー!いいいかー!」
「わかりましたー!」
 大介は昨日のツケは大きいと、溜息をつきながらバケツに水を汲み、牛小屋に入っていった。
 牛数頭の手入れが終わった頃、また傷が痛み出した。手を止めて肩の傷を押さえて座り込み、溜息をついた。
 そこへ団兵衛が様子を覗きにやってきた。
「こぉらー!大介!またさぼっとるのかー!まじめにやれって言っただろがー!」
「はいはい……」
 大介は、自分の間の悪さを悔いた。慌てて立ち上がり、また作業を再開した。
「くぅー!全くもう!わしが見張ってないと動かんヤツじゃ!」
 そう言うと団兵衛は、入り口で仁王立ちのまま腕組みをし、苛々と大介を見張った。
 大介は、黙々と手入れを続けた。少しでも手を止めると、団兵衛の罵声が飛んでくるのだった。
 やっと牛たちの手入れが終わる頃、ひかるが入ってきた。
「お昼ご飯が出来たわよ。お食事にしましょ」
「おぉそんな時間か、飯にしよう」
 そう言いながら、団兵衛は小屋を出ていった。
「大介さんもお食事よ。お父さんが煩いから疲れたでしょう」
「あぁ、ありがとう。いや、いつものことだから……はは」
 大介は道具を片づけ、バケツを持って小屋を出ようとしたとき、太陽の眩しさに目が眩み、バケツを落としてしまった。
「あっ!」
 大介は慌ててバケツを拾うとすると、
「どうしたのよ、大介さん」
 そう言いながらひかるも手を伸ばし、バケツを拾い上げようとして頭同士がコンとぶつかった。
「いたっ!」
「あぁ、ごめん、ごめん。大丈夫だった?」
 大介は慌ててひかるの頭を撫でた。
「大丈夫よ。ちょっと当たっただけだもの。うふふ」
 二人は向かい合って微笑んだ。
「こぉらぁぁー!大介ー!ひかるに手を出すなとゆーとろーが!」
 自宅に入る坂の途中で、団兵衛が振り返り、叫びながら戻ってきた。
「あ……」
 大介はまた自分の間の悪さを呪った。
「お前、ひかるに何してるんだ!えぇ?」
 団兵衛はひかるの手を引っ張り、大介に向かって怒鳴った。
「お父さん、何怒ってるのよ!ちょっと頭がぶつかっただけじゃない!」
ひかるは腰に手を当て、団兵衛に向かって文句を言った。
「なんじゃと!頭がぶつかるって何をしてたんだ!大介!大事なひかるに手を出しおって!」
「……」
 大介は、これ以上何を言っても聞く耳を持たないであろう団兵衛に言い訳はしなかった。
「だいたいお前みたいなふらふらしたヤツは、ひかるの側に近寄るな!いいかー!罰として昼飯は抜きじゃい!わかったか!」
 団兵衛は、大介にあらん限りの罵声を浴びせた。
「何よ!お父さん、それひどいわよ!朝から休みなしに仕事させて、お昼抜きなんて、そんなのあんまりよ!」
「何を言っとる!働かざるもの食うべからずじゃー!」
 団兵衛は叫び続けた。
「じゃぁお父さんは、お昼ご飯抜きね!いっつも働かないでUFO、UFOって遊んでばかりじゃない!」
「なんじゃとー!わしはUFOと仲良くなる会の会長なんだぞ!それがわしの仕事じゃー!」
「へー?ご大層な仕事ね。ばっかじゃないのぉ?」
「なんじゃと!ひかる!お前は男のロマンがわからんのじゃ!」
「へーんだ!そんなのわかりませんよーだ」
 ひかるは、そっぽを向いて団兵衛に文句を言っていた。
 大介は、二人の会話が頭に響いてうんざりしていた。
「まぁまぁ、ひかるさん。僕はいいから食事してきてよ」
「だって大介さん、お父さんがあんまりなんだから!」
「こらぁぁー!大介!ひかると口聞くな!何度言ったらわかるんじゃー!お前は馬の手入れをしてろー!」
 団兵衛は、また頭から湯気が出そうなくらい怒鳴った。
「はいはい……わかりました」
 大介はそう言うと馬小屋に入っていった。
「お父さんなんか大嫌い!」
 そう言うと、ひかるは自宅へと走り去っていった。
「こりゃひかる、またんかいっ!」
 団兵衛も、ひかるの後を追って走っていった。
 大介は、なるべく団兵衛を怒らせないようにと思っているのに、なぜこんなにも怒りを買ってしまうのか自分の要領の悪さを呪った。
 大介はバケツに水を汲み、馬の手入れをはじめた。肩の痛みが少しずつひどくなってきたが、休んでいてはまた団兵衛の怒りを買うばかりだと手を動かし続けた。

関連コンテンツ
証 3
証 5