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証 7

by Ree


 

 次の日、体力が戻った大介は、グレンダイザーの整備に取りかかっていた。破損した尾翼は、山本達の手によって全て元通りに修理されていた。大介は、山本達の手腕とパワー、そして何よりもチームワークの良さに感動していた。これから益々激しくなるであろう戦いも山本達が居る事で、どれほど心の支えになるだろう。大介は心の底から感謝していた。
 さすがにグレンダイザーのシステムは、大介以外触ることが出来ず、大介は一人黙々と整備を続けていた。
 昼を少し回った頃、甲児が格納庫へやってきた。
「おーい、大介さん!」
 甲児は、グレンダイザーのコックピットで奮闘している大介に声を掛けた。
「やぁ、甲児君」
「ちょっと休憩しないかー?外はいい天気だぜ」
「あぁ、丁度一段落ついたところだ。今そっちに行くよ」
 大介はそう言うと、コックピットの点検パネルを閉めて立ち上がり、勢いよく飛び降りた。
 二人は連れだって、研究所の最上階にあるヘリポートに佇んだ。
「うーん、いい天気だ。日の当たらない格納庫に居るなんて、なんだか勿体ないな」
 大介は、大きく背伸びをしながら柔らかな日差しを身体いっぱいに浴びていた。
「ああ、太陽の日差しが気持ちいいな」
 甲児もそう言うと、ヘリポートのコンクリートの床にゴロンと寝ころんだ。
「そろそろ牛達の運動の時間だ……どうしてるかなぁ」
 大介はそう言うと甲児の側に座った。
「あはは!大介さん、あれほどおじさんに怒鳴られてたのに、やっぱり牧場が気になるんだ!」
「う・うん……あっそうだ。甲児君、昨日はありがと。おかげで助かったよ」
 大介は、甲児に向かって礼を言った。
「あぁ?俺何もしてねーよ。しかしさ昨日の所長、なかなか名演技だったぜ」
 甲児は、身体を起こし、あぐらを掻いて座った。
「らしいね。父さんが自画自賛してたよ。全く……おかげで余計怒鳴られることが増えたってわけさ。あはは」
 大介は、頭を掻きながら笑った。
「しかしさ、おじさん、何であんなに大介さんに辛く当たるんだ?確かに抜け出したことは悪いとは思うけど、ちょっとおかしいんじゃないのか?」
 甲児は、常々疑問に思っていたことを大介に聞いてみた。
「そりゃ、おじさんにはおじさんの思いがあるのさ。仕方ないさ」
「どんな思いがあるって言うのさ?」
 益々甲児は疑問になってきた。
「う・うーん……僕は、宇門源蔵の息子だからね」
 大介は、遠くの景色を見つめながら応えた。
「それがどうして怒鳴られる理由になるんだ?」
「おじさんは、知ってるんだ。僕たちは本当の親子じゃないことを……だってそうだろ?おじさんと父さんは長いつきあいなんだ。それが突然、こんな大きな男が息子だってやってきたんだ。普通はおかしいと思うだろ?」
 大介はあぐらを掻き、肩の力を落として喋っていた。
「そりゃまあそうだけどよ……」
 甲児は、それでも腑に落ちなかった。
「父さんは、財閥で資産家なんだ。これだけの設備を個人で設営できるだけの財力がある。それが、突然息子が出来たんだ。普通は財産目当てって考えるだろう?」
「えー?大介さんが、財産目当てで養子になったと思われてるわけ?あははは!こりゃ傑作だ!」
 甲児は、もんどり打って大笑いした。
「……初めて父さんに息子だと紹介されて牧場に行ったその数日後、おじさんに言われたよ」
 大介は、俯いて語りだした。
「おじさんは僕にライフル銃を向けて、本当の目的を言え!って……ふふふ、僕は僕で、この人は僕を侵略者だと思って排除しようとしているのだと思ったんだ。だいたいその頃は、まだそれほど日本語を理解していなかったしね」
「で、大介さんはなんて答えたの?」
「……何も答えなかったよ。説明しても理解して貰えないと思っていたし、このままここで殺されても、もう構わないと思ったんだ……もう逃げ回る事に疲れてたんだ……」
「……」
 甲児は、初めて大介の心の中を見た気がした。
「ところがおじさんは、わしに認めて貰いたいのなら、働け、一生懸命働くんだ。そう言ったんだ……全く意味がわからなかった。ただ、働けば自分はここに居ることが出来るんだって、そう思ったんだ」
 大介は俯いて目を閉じた。
「だから大介さんは一生懸命牧場の仕事をしてるんだ」
 甲児は感心して聞いていた。
「おじさんが言ったことを本当の意味で理解したのは、随分後になっての事さ。ドクターに教えて貰ったよ。順当に行けば、僕が次に牧場の共同経営者になるわけだ。おじさんにとっては牧場の将来がかかっているんだからね、僕が中途半端な生活をしているのが許せないんだ。だから鍛えてやるって思ってるのさ」
「なるほど……そう言う訳か!」
 甲児は、やっと団兵衛が大介に辛く当たる意味がわかった気がした。
「僕が、牧場の経営者になるなんて、そんな事出来るはずないのにね……ははは」
 大介は、馬鹿馬鹿しくて大笑いした。
「ところでさ、大介さんは所長と親子って事になってるけど、戸籍はあんの?」
「え?それは……」
 大介は、突然の質問に少々戸惑った。
「僕は知らない……」
「なんで?何で知らないのさ。自分の事だろ?気にならないのかい?戸籍がなきゃ、所長の跡継ぎも何も話し以前の問題じゃん」
 甲児は本来ならば一番気になるであろう事を、大介が知らないのが腑に落ちなかった。
「それは僕が決める事じゃない。僕は、ただここに居られるだけでいい……それが僕の全て。それ以上は望んでないさ」
 大介は遠くの景色を見つめていた。
「大介さんさぁ、夢は何?」
「え?」
「俺は、いつか自分の作った円盤で宇宙を飛び回りたい……それが夢なんだ!大介さんにもあるだろ?でっかい夢が……」
「ふふふ、それを聞かれたの、2度目だな」
「え?誰かに聞かれたのかい?」
「昨日、ひかるさんに聞かれたよ」
「で、なんて答えたんだい?」
「地球の平和」
「ぶっ!そりゃちょっと夢って言うのとは違う気がするなぁ」
 甲児は、その答えが大介らしいとは思ったが、夢と呼ぶにはちょっと違う気がした。
「ひかるさんにもそう言われた。もっと自分のやりたい事って無いのか?って……だから考えて、この牧場でずっと働いていたい。そう答えたんだ」
「えー?そりゃまた……でもそれって夢って言わないんじゃないのか?なんだか凄く現実的じゃない」
「やっぱり可笑しいかい?」
「可笑しいも何も……夢ってもっとスケールがでかいものだと思うけどなぁ」
「やっぱり僕は可笑しいのか……」
 大介ははにかんで俯いた。
「ひかるさんは何て言ってた?」
「自分をからかってるのか?って……全然ロマンチストじゃないと怒られたよ」
「ぷっぷっぷっ!そりゃ誰だって怒るだろ?そんな回答されたら……」
 甲児は、ひかるが怒った顔を思い浮かべた。
「……でも、僕にとっては、そんな事も叶わない……平和に暮らすことも僕には許されない……仕方ないさ……」
 大介は呟くようにそう言って遠くの景色を眺めていた。
 甲児は絶句した。自分には限りない未来があると信じている。自分の夢を叶えるために、その努力は惜しまない。だが、大介はそうではない。地球人として生きていくことさえ簡単ではない。ましてや戸籍がなければ、この日本と言う国では自由に行動する事も出来ない。ただこの地で息を潜めて生きていくしか、今の彼には道が無いのだ。その上彼は、地球の運命まで背負ってしまった。そんな大介に、何を夢見ろと言うのだろうか……
 甲児は笑った自分を恥じた。
「大介さん……大介さんの夢を叶えられるように僕も一緒に頑張るよ」
「甲児君……ありがとう」
 大介は振り返り甲児を真っ直ぐに見つめた。
「だけど、無茶はしないでくれよ」
「何言ってんだよ。無茶は俺の十八番だろ?あはは!」
 二人は顔を見合わせて大笑いしていた。

 大介が格納庫に戻る途中、ドクターとばったり出会った。
「おお大介君、元気になったようだな」
「あぁドクター、ご心配をおかけしました」
「今日は、まさか来ないつもりじゃないだろうな?」
 ドクターは、大介に向かって少し意地悪そうに聞いてきた。
「え?あ……もう大丈夫なんですけど」
 大介は、面目なさそうに頭に手を当てて答えた。
「君の主治医は私だ。大丈夫かどうかは私が判断する。さっさと来たまえ」 
 ドクターはそう言い捨てると、さっさと医務室に向かっていった。
 大介はため息をつき、ドクターの後に付いていった。
 医務室に入ると、ドクターは満足そうに椅子に座った。
「上着を脱ぎたまえ」
 大介は、そう言われて上半身裸になってドクターの前の椅子に座った。
 ドクターは、肩に貼ってあるガーゼをはずし、ふむ。と頷いていた。
「君は、自分の身体をいじめるのが好きなのかね?」
 ドクターは、消毒の瓶を取り出しながらそう言った。
「いえ、そんなことはありませんけど……すいません」
 大介は頭に手を当てながらドクターに謝った。
「じゃ、馬鹿としか言いようがないな。良くもまぁこんな傷で牧場の仕事が出来たもんだ」
 ドクターはそう言うと、少し乱暴に傷口に消毒薬を塗り込んだ。
「痛……う……」
 大介は腕を掴み、顔を歪ませながら痛みに耐えた。
「ほほぉ、やはり痛いのかね?わしはてっきり痛みなんぞ感じないのかと思ったぞ!」
 ドクターは、得意満面な顔で大介に言った。
「ド・クター……」
 大介は言い返す言葉が無かった。
「少しは自分の身体を大事にしたまえ。所長にも昨日きつく言っておいた。全く……」
 ドクターはそう言いながら、薬を染みこませたガーゼを肩に貼り付けた。
「ドクター、お願いです。父さんを責めないでください。僕が悪いんですから……」
「そう思うのなら、次からこんな無茶はするんじゃない!わかったか!」
 ドクターは大介にきつく言い聞かせた。
「はい……申し訳ありませんでした」
 大介は、ドクターに深々と頭を下げた。
「しかし、団兵衛さんにも困ったもんだな」
「おじさんは、何も知らないのです。仕方ありません。悪いのは僕ですから……」
 大介は上着を着込みながらそう答えた。
「これからは、牧場の仕事は少し控えた方がいいな。これから益々戦いは激しくなる。団兵衛さんの機嫌もさらに悪くなるだろうし……」
「やはり僕が牧場に行くことは、みんなに迷惑掛ける事なのでしょうね……」
 大介はそう言うと、辛そうな顔で俯いた。
「……大介君、そんなことは無いさ。君が行きたいときに行けばいい。ただ、君にとって辛いことなんじゃないかと思っただけさ」
 ドクターはそう言うと微笑んだ。
「辛いだなんてそんなこと……牧場は僕の居場所だから……」
「あぁ、そうだったね。すまなかった……ただ、無理はするんじゃない。所長が心配するぞ」
「ええ、わかりました」
 大介は、そう言うとドクターに頭を下げ、医務室を出ていった。

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