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証 8

by Ree


 

 数日後、大介は整備班のリーダーの山本と新しい機材の打ち合わせをしていた。今後、グレンダイザーの不測の事態に対応するために、大がかりな設備を設置する事になったのだ。
「これが出来上がると、整備の時間も大幅に短縮される。君も心おきなく戦えるってわけだな」
 山本は大介にそう言った。
「なるべくなら、使わない方がいいんですけどね。ははは」
 大介は、山本にそう言って笑った。
「じゃ、後はよろしくお願いします」
 大介は山本に頭を下げ、格納庫を出ていった。

 大介は、ヘリポートに一人佇んでいた。
 雪がちらほらと舞い降りていた。大介は雪を手のひらで受け、解けていく様を眺めていた。
「ここにいたのかね」
 背後から声を掛けたのは宇門だった。
「父さん……」
 大介は振り返り、宇門を見つめた。
「雪が降ってきたね。また厳しい季節がやってくる」
 宇門は 大介の側に立ち、同じように雪を眺めていた。
「きれいですね、雪って……心が洗われていくようだ」
 大介はそう言いながら遠くを眺めた。
「大介……これをお前に見せたくてな」
 宇門は、そう言うと上着の内ポケットから折り畳んだ紙切れを取り出した。
「父さん、これ……」
 その紙切れには、大介の名前、生年月日、そして父の欄には、宇門源蔵の名前が記載されていた。
「お前の戸籍謄本だ」
「……どうしてこれを?」
「甲児君に言われたよ。お前の戸籍はどうなってるのかって」
「え?甲児君が?」
「お前をわしの息子にすると決めたときに、人に頼んで戸籍を作って貰っていたのだ。戸籍が無ければ、どうしても不都合が起きたりするからね。人の目を避ける為にも必要だと思ったのだ。だが、そうすることによってお前を束縛する事になると思い、何も話さなかった。わしの息子と言う形をとっても、お前は自由に生きていけばいいと思っていた。だが、それは間違いだった。この日本という国は、戸籍が無ければ自由に動くことも出来ない。万が一、事件にでも巻き込まれれば、たちまち追求されるだろう……その事をお前は解っていたのだな……だからこの地から出ることもせず、牧場を唯一の居場所として守りたかったのだろう。すまなかった……もっと早くその事を伝えるべきだった。結局はお前を、この小さな社会に閉じこめていただけだったのだ……」
「そんな事……そんな事、考えたこともありません。こんな僕を受け入れてくれた父さんには、どれだけ感謝しているか言葉では言い尽くせない。有り難いと思っています。僕は、ただここに居られるだけで幸せなのです。それ以上何も望まない」
「大介……お前はまだ若い。お前にも限りない未来があるのだ。もっと前向きに生きていいんだぞ」
「父さん……」
「お前は、地球人として確かに存在しているのだ。そしてわしの息子としてな。その謄本はその証なのだ」
 宇門はそう言って微笑んだ。
「……父さん」
 大介は、目頭が熱くなるのを押さえることが出来なかった。自分の存在価値など、考えることは無意味だと思っていた。ただこの地で息をしている。それだけが自分の全てだと思っていた。だが、この薄っぺらい紙切れ一枚が、自分の存在を認めてくれる様で嬉しかった。
「ありがとうございます」
 大介は、満面の笑みをたたえ宇門に礼を言った。
「お前は、もう地球人なのだ。胸を張って生きていけ」
 宇門は大介の肩に手を置き、力強くその言葉を発した。
「はい!」
 大介は、力強い目で宇門を見つめた。
 そして二人は並んで、雪の舞う大自然をいつまでも見つめていた。

 その後、大介は再び牧場の手伝いをしていた。
「こらぁー!大介!ぼけっとしとらんと、さっさとやらんかいっ!」
 櫓の上から団兵衛がまた怒鳴っていた。
「はいはい……ふぅ……」
 事あるごとに怒鳴られっぱなしの大介だった。
 馬のマックスが大介を追い回していた。
 マックスは、大介が牧場に来てから初めて生まれた馬だった。
「マックス、仕事中なんだから、あっちで遊んでろって!じゃないと、またおじさんに怒鳴られるじゃないか!」
 ヒヒィーン ヒヒィーン
マックスは大介に構って貰えなくて暴れていた。
「しょうがないなぁ……」
 大介はそう言うと、マックスの首をなでてやった。
「こらぁー!大介!手を止めるなー!」
「うっ!ほら見ろ、怒られたじゃないか!」
 ヒンッ ヒンッ
 マックスは、すまなさそうに首を振った。
「あはは!お前はかわいいヤツだな」
「大介さんがしばらく休んでたから、マックスは寂しかったのよ。ふふふ」
 ひかるが側にやってきて、そう言った。
 マックスは、大介の回りを走り回っていた。
「マックス、一緒に走るか?」
 大介はマックスの背に鞍を付け、マックスにまたがった。
「それっ!」
 マックスは力一杯走り出した。
「あっ、大介さん!待って!私も行くわー!」
 ひかるはそう言うと、慌てて馬に鞍を付け大介の後を追った。
「こりゃー!大介!ひかる!何処へ行く!」
 団兵衛が大声で怒鳴っていたが、二人は無視して走っていった。
「くっそー!あいつら、全然言うことをきかんわい!帰ってきたら縛り首じゃ!」
 夕日が沈むその中を、大介とひかるは共に走っていった。
 川の畔で二人は並んで夕日を見つめていた。
「ひかるさん……」
 大介は夕日を眺めながら、ひかるに声を掛けた。
「え?なあに?」
 ひかるは、呼ばれて大介を見つめた。
「僕は、この素晴らしい大地を命ある限り護りたい……それが僕の夢だ」
 大介は沈みゆく夕日を力強く見つめて、ひかるにその言葉を告げた。
「大介さん、素敵な夢だわ……私も一緒に護っていきたい……」
「ありがとう……」
 ひかるは夕日に染まる大介の横顔が、とても誇らしく見えた。
 大介は、この平和がいつまでも続くことを祈っていた……願わくは……永遠に……


ー終ー

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