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グレンダイザーはベルサイユ宮殿の夢を見るか?

はじめに

 「浜の真砂は尽きるとも、世にトンデモの種は尽きまじ」とは、と学会方面でしばしば言われることである。トンデモ本大賞のイベントにはしっかり都合を付けて参加し、と学会本を欠かさず購入する私も、2004年の暮れも押し詰まった時期に、まさか自分がトンデモ本に遭遇するとは思ってもみなかった。しかも、永井豪ファン&マジンガーZファンの集まるオフ会で。
 以下、「グレンダイザー」にも「ベルサイユのばら」にも、さほど詳しくない方がご覧になっても楽しんでいただけるように、それぞれの解説を加えつつまとめてみた。

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図1:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)p.83

 「UFOロボ グレンダイザー」は、東映動画&ダイナミックプロによるロボットアニメで、1975年10月から1977年2月にかけて放映された。今の三十代の人であれば、リアルタイムあるいは再放送で見た人がたくさん居るはずである。もっと若い人たちは、ゲームのスーパーロボット大戦シリーズで知ったのではないだろうか。
  マジンガーZ、グレートマジンガーに続く後番組がグレンダイザーである。
  マジンガーZは、祖父兜十蔵が作ったスーパーロボットに乗って、孫の甲児が、かつて十蔵の同業者であったドクターヘルと戦う話である。グレートマジンガーは十蔵の息子剣造がロボットを建設し、剣鉄也を指揮してミケーネ帝国と戦う話である。マジンガーZの戦いを引き継ぐ形でグレートマジンガーが登場し、主役ロボットであるにもかかわらず、最終回でさんざん破壊されるという形での交代劇を行ったのは、当時としてはお約束を壊すという意味で、非常に斬新であった。
 三作目のグレンダイザーは、これらの流れと打って変わった、異星人侵略物である。当時はUFOブームであり、それを敏感に取り入れて企画されたと思われる。

 ……ある日、円盤が八ヶ岳山中に不時着した。乗っていたのは、アンドロメダ星雲にあるフリード星の王子デューク・フリードで、円盤の名はグレンダイザー、身長30mの戦闘ロボットを内蔵していた。フリード星は、ベガ星連合軍の攻撃によって壊滅的打撃を受け、王子のデュークはフリード星の守り神グレンダイザーで地球に逃れたのだった。それを発見した宇宙科学研究所の宇門源蔵博士によって、グレンダイザーとデュークは保護されることになる。宇門は、デュークに宇門大介を名乗らせ、自分の息子として遇した。2年が過ぎた頃、ベガ星は地球を発見し、侵略戦争を仕掛けてくる。NASAから戻って宇宙科学研究所に来ていた兜甲児とともに、デュークはグレンダイザーで出撃、これを撃破する。以後、ベガ星連合軍が繰り出す円盤獣(後半ベガ獣)と戦い、毎回これに勝利する。途中で、行方不明になっていた妹マリアが宇宙科学研究所に合流する。ベガ本星が滅びたことで地球圏にやってきたベガ大王を、最終的に撃破し、デュークとマリアはフリード星再建のために地球を飛び立っていく。
 これが、グレンダイザーのストーリーである。

 前 マジンガー2作と比べ、人間ドラマに重点が置かれたのが、グレンダイザーの特徴である(メロドラマ的展開が多かったともいうが)。星間戦争が前提であり、ベガ星連合軍に征服されて無理矢理コマンダーに仕立て上げられた敵との戦いが数多く描かれた。コマンダーの中には、ふるさとの星や人々を人質に取られて戦いを強制された者や、洗脳された者も多く、総じて悲劇性が強いのが特徴である。主人公のデュークにしても、宇門源蔵という後見人が居るとはいえ、途中までは異星にただひとり天涯孤独の身の上で、前2作の主人公である兜甲児の「明るさ」や剣鉄也の「強さ」と比較した場合、むしろ「寂しさ」「翳り」の方が目立つキャラクターであった。
 悲劇の代表例には次のようなものがある。デュークの幼なじみのナイーダが、機械を埋め込まれ操られてグレンダイザーとデュークを攻撃し、「敵である円盤獣にはフリード星人の脳が使われている」と告げ、デュークを錯乱状態に追い込んだ。正気に戻った後は、デュークの目の前で、攻撃してきたベガ星連合軍部隊に特攻して果てた。また、 デュークの昔の婚約者ルビーナ姫は、宿敵であるベガ大王の娘で、見事にロミオとジュリエットを踏襲した上、最期はデュークをかばってデュークの腕の中で息絶えた。
 他にもいろいろあるが、ベタでも何でも、とにかく悲劇の王道を盛り込もうとしたとしか思えない話が、グレンダイザーにはいくつもある。

 「ベルサイユのばら」は、池田理代子原作の漫画で、フランス革命を題材にしたものである。1972年4月から、週刊マーガレットで連載が開始され、1973年12月に、82回目を以て連載を終了した。宝塚歌劇団月組による「宝塚グランドロマン・ベルサイユのばら」の公演は1974年8月のことである。その後、宝塚ではキャストを変えて繰り返し上演された。アニメ「ベルサイユのばら」の放映開始は1979年10月、放映終了は1980年9月である。コミックスも、連載から三十年を経た今でも売れ続けており、超ロングラン&人気作品である。[2]

 「ベルサイユのばら」の物語は、フランスのブルボン王朝最後の国王ルイ16世の王妃となるべく、オーストリアからマリー・アントワネットがやってきたところから始まる。要するに政略結婚ということだ。王宮を守るため、女性でありながら訓練され近衛兵の任に着いていたオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェは、アントワネットが仮面舞踏会にお忍びするのに付き従い、そこでスウェーデンの貴族ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンと出会う。アントワネットとフェルゼンの道ならぬ恋、幼なじみで平民であるアンドレのオスカルに対する(身分違いの)片想い、オスカルがフェルゼンを密かに想う恋心という四角関係(?)をストーリーの1つの柱とし、アントワネット(と当時の貴族社会)の贅沢等による国家財政の破綻をきっかけに、力を付けてきた市民達が三部会の開催を要求、最後は市民革命を起こして国王と王妃を処刑する、という史実としてのフランス革命の流れをもう一方の柱として話が展開する。
 オスカルが近衛連隊を辞めてフランス衛兵隊に移ったり、バスティーユ攻撃に参加(つまり平民側に寝返ったということ)したり、その途中でアンドレが、そしてオスカルが相次いで戦死するなど、物語の終盤に向けて悲劇が盛り上がる。ルイ16世とアントワネットは相次いでギロチンで処刑され、フェルゼンは自国に戻ったあと暴徒に虐殺されて、物語は幕となる。登場人物全てにおいて、結局結ばれない恋、結ばれたとしてもはかない恋が多いのも特徴である。華やかだったブルボン王朝が終焉を迎える物語であり、前半の、陰謀渦巻く王宮の華やかさと、後半の王政が瓦解していく様子が、鮮やかな対比を見せる構成となっている。
  男装の麗人オスカルには、女性の人気が集中し、熱烈なファンクラブが結成された。

 つまり、「UFOロボグレンダイザー」「ベルサイユのばら」ともに、設定もジャンルもターゲットも全て異なるものの、基本が「悲劇」であることを、まずは念頭においていただきたい。とはいっても、その共通点は、王朝が一つ滅びたという以外にまるで無い。グレンは王朝が滅びてからの話、ベルばらは王朝が滅んでいく話である。

 さて、悲劇と悲劇を無理矢理ドッキングさせると悲劇になるどころか、月面宙返りを決めた挙げ句トンデモの彼岸に着地してしまう、というのが、今回取り上げる「えものがたり ベガ星友のバラ」である。出典は1976年に刊行された「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」である。

 図1に、絵物語のタイトルページを示す。タイトルからしてが、無理矢理語呂合わせしている。ってか、メスカルってネーミング共々、何気にオヤジギャクかましてないか?子供向けの本なのに。

 登場するオスカル……じゃなくてメスカルは、バラをくわえている。オリジナルの「ベルばら」を読み返したところ、オスカルがバラをくわえた絵は実は少ないことがわかった。1973年の週刊マーガレット6号の表紙以外に目立ったものがない。そのかわり、イラストの背景や、手に持った花束として深紅のバラが描かれることが多い。どうも、「ベルサイユのばら」の「ばら」は、オスカルやアントワネットの美しく華麗な様を印象づけるための、象徴的な意味で使われていたのではないかと思われる。池田理代子氏自身、このタイトルを決めた理由を「インスピレーションですね」と述べている[2]。なお、オスカルが父親から結婚するように言われて開いた舞踏会で、求婚者ジェローデルの前でバラの花びらを食べるシーンがあるが、これも一コマだけである[5]。

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図2:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.84-85


図3:「ベルサイユのばら」3巻p.138

 グレンダイザーの時代背景は先に書いたように、1970年代半ば日本である。しかも舞台は八ヶ岳である。白馬にまたがった騎士が現れた時点でちっとは怪しめよお前ら!それに、「中世ヨーロッパの騎士」はないんじゃないの。ブルボン王朝の末期は、時代区分でいうと中世じゃなくて「近世」だぞ。牧葉ひかるは、設定では高校三年生だが、世界史の授業をちゃんときいてたんだろうか?牧場の仕事をするのもいいが、予習復習もしっかりせんかい。

 メスカルもメスカルで「あのような娘がいたらベガ星も平和な星になったのだろうに」って、娘一人で平和になるような星かよベガ星は !さんざんアンドロメダ星雲中を荒らしまくっておいてよくこんな事が言えたものだ。ってか、一応は、その侵略の最前線にいる実行部隊のコマンダーでしょ。平和になったら真っ先に失業しそうですが……。脳天気というか、何考えてんでしょうね一体。

 馬にまたがった姿も、そのまんまベルばらのオスカルである。アニメ版とちっとも似てない、作画が超甘の牧葉吾郎と牧葉ひかるについては、まあ、当時の子供向けアニメ本のご愛敬ということで納得するとしても、今度は、一体ベルばらのどのシーンから絵を持ってきたのかが気になる。ということで、一番似たようなコマを探してきたのが、図3である。これは、オスカルがフランス衛兵隊に着任し、初めて部隊の指揮をとりに駐屯地に出向いたときのシーンである。手の位置と馬の足運びが若干異なるが、他はそっくりである。

 この「ベガ星友のバラ」の「メスカル」のコスチュームは、全て、「オスカル」のフランス衛兵隊バージョンである。作中では、オスカルは、近衛兵→近衛連隊長→フランス衛兵隊、と勤務先を変えているが、近衛の軍服には、右肩から左の腰にかけて斜めに幅の広いリボンのような飾りがつくことになっている。原作者の池田理代子氏は、このあたりの描き分けをはっきりなさっているので、リボンの有無で区別しても、まず間違いはない。

 なお、馬の前のところのバックルが、ベガ星親衛隊のマークにしっかり変更されていることに注意してほしい。芸が細かいです。でも、そこまでやるなら、メスカルの軍服の飾りも親衛隊マークにしてほしかったなあ。

 

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図4:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.86-87

 「日本中の牧場をこの馬で旅している」ってそんな無茶な。その格好でそんなことしたら、ただの怪しいお兄さんになってしまう。取材が入ったり、ワイドショーに追っかけ回されそうです。馬で移動すること自体は違法じゃないんだけど、その衣装がな……。その前に、職務質問喰らって剣をチェックされ、銃刀法違反の現行犯で逮捕されるのが関の山かも。

 「私も一度そんな格好をしてみたいわ」っていうヒカルさん、コスプレの趣味があるようです。別に止めませんが、時と場所は選びましょう。どこぞの舞台かコミケででもやっててくれ。

 「この馬は、目が動物と違った光をしている。まるでレンズのようだ」って、怪しむところはそこかよ!。相変わらず馬にしか興味が向かない大介さん。良い味出してます。

 

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図5:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.88-89


図6:「ベルサイユのばら」2巻p.195。黒い騎士をとらえろ!の扉絵。

 思いっきり宇門博士のコスチュームが違ってます。白衣姿は設定画にも本編にも登場しません。ま、それを言うなら、他の登場人物のコスチュームもだけど。

 メスカルの方は、宇門博士と話をして「知性の高さに驚かされた」わけだが、このコスチュームのメスカルを見た宇門博士の方はというと「なんとなく異常なものを感じた」って、おいこら所長、あんたこの風体見てもまだ何となくしか異常を感じてないのかよ!設定じゃ「優秀な天文学者」ってことになってるが、正真正銘の専門バカかお前は……。「こんなすごい人が」の「すごい」の中身は、服装や外見で人を判断しないとかそういう意味ですか?確かに道徳の授業じゃそう教わりますけどね、それにしたって、物には限度ってもんがあると思うんですが。宇門博士の年齢設定は五十歳ですが、で、何度も言うように1970年代半ばの五十歳なわけですが、ひょっとして宇門博士はこの時代にしては「コスプレに理解のある超ハジけたおっさん」ってことですか?いやまあそういう人が優秀な科学者でもいいんですけどね、何とかは紙一重って言いますから。それにしても、侵略受けとる最中じゃないのかと、研究所って地球防衛の拠点じゃないのかと。これじゃ、危機感無さ過ぎ。この絵と物語を見た後じゃ、「地球人は馬鹿ばかりだと思っていた」メスカルの最初の判断の方が、何だか正しく思えてきます。
 っつーかさ、この場合の知性が高いって一体どういう意味なんでしょうね?私、眩暈がしてきましたよ。

 図1と図5は、バラをくわえているかどうかの違いだけで、ほとんど同じ構図で「メスカル」が描かれている。これと同じ、正面からこのポーズをとったオスカルは、原作を探してみたが見あたらなかった。そのかわり見つけたのが図6である。帽子と剣の角度、右手に持った手袋から考えて、この絵をもとにして、真正面を向いたメスカルを作画したのではないだろうか。

 

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図7:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.90-91


図8:「ベルサイユのばら」3巻p.120

 え、えーと「ヒカルと一緒にいたかった」って……。原作オスカルは男装の麗人でしたが、絵物語のメスカルは♂確定ってことでよろしいんでしょうか?児童向けのこんな本に同性愛ネタが登場するとしたら、いくら何でもヘビー過ぎます(汗)。

 そりゃそうとこのページ、原作の同じページから2コマ同時にパクってます。トレースしたのかと思う位そっくり。図8に、元ネタと思われるコマを示します。もともとは、オスカルが、王妃マリーアントワネットに、近衛隊の退役を願い出るシーンです。だから、跪いているんですね。ページ一番上に出てきます。んで、右側の顔アップは、同じページの左下に出てきます。この後、フランス衛兵隊に移るので、このコマでのコスチュームは近衛連隊長のもののはずですが、姿勢が下向いてるので、飾りのリボンは見えません。

 

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図9:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.92-93

 気配で気付くほどの達人なら、剣を直接手で掴むなと言いたい。せめて白刃取りするとか何とかできなかったのだろうか。こういう戦い方をすると、指を五本とも落とされそうな。ってか、落とされないまでも右手は当分使い物にならんだろうに、よくこの直後にグレンダイザーの操縦桿を握れたよなあ……。

 ヒカルと一緒に居たいとか、ヒカルの悲しむ顔を見たくないとかいう理由で攻撃をためらっているのだとしたら、この場合大介は恋敵ということになるはずだが、この行動、どう考えても優秀なコマンダーのそれじゃない。

 それに、大介さんはしっかり上半身裸で寝ているし。妙なところだけ本編のシーンを踏襲してると思うのは私だけか?(ところでペンダントはどうした?)

 このコマの元ネタは、一応文庫を見直してみたが発見できなかった。原作の、アランと剣を交えるシーンかと思ったのだが、こういう姿勢をとっていなかった。どなたか該当しそうなシーンを見つけた方がいらっしゃったら、お教えいただきたい。

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図10:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.94-95


図11:「ベルサイユのばら」4巻p.148

 そしてこれが驚愕の巨大化シーン。設定によれば、グレンダイザーのサイズは全長30 mである。馬にまたがったメスカルはこれと互角のサイズである。もはや、白馬にまたがったオスカルではなく、Gガンダムと風雲再起になっている気がしてきます。

 角度は違うが、このコマのもとになったと思われるのが図11である。平民議員を追い散らしに向かった近衛隊の前に立ちはだかって止めるオスカル、というシーンである。髪のなびき具合とか剣とか、これを参考にして作画したのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

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図12:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)pp.96-97

 後ろに二人で立ってるのって、ヘアスタイルからして、どう見てもコマンダーミネオですよね。どうして二人いるのか謎な上、めちゃめちゃ目つきが悪いんですけど。ただ、あまりに細長い髪の部分が禍々しさを醸し出しているので、ひょっとして先端部分が蛇頭になってて実はメデューサだったなんてオチが隠されているんじゃないかと思って、よーく確認したんですが、普通に尖った髪でした。

 で、「断頭台の露と消えた」と、最後までフランス革命しとりますな。ベガ星なのに。

 この服装で手錠をかけられたオスカルは、原作ベルばらにも登場しない。私服はこのスタイルで合っている。また、ギロチンをこの角度から描いたシーンも無かった。処刑のシーンが描かれたのはルイ16世とアントワネットだけである。

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図13:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店)p.98

 ここまで読むと、最後のこのページは、もはやボケをかまそうとして滑ったようにしか見えない。ってーかその前に一体何を語り合っていたんでしょうか、この二人。

 ちなみにこの本の他の部分は、極めて普通……というか予測可能な内容である。表紙やグラビアには、主役ロボや支援メカの勇姿が描かれている。敵側のベガ星連合軍の方もバランス良く取り上げている。TV本編に登場した宇宙機雷作戦や日食利用作戦なども書かれており、TV放映中のタイアップ企画としては、なかなか良くできていると思う。
 グレンダイザーが、マジンガーZ,グレートマジンガーの後番組であることをふまえ、三大ロボットの機能比較というお約束も外さない(比較に使われた数値の一部が本編と違っているとしても)。さらに、敵側円盤獣図鑑もついており、子供向けロボットアニメ解説本としては十分な内容である。
  「宇宙のちしき」なんてコーナーもあって、今読んでみても、まあ科学的にまともなことが書いてある。膨張する宇宙とか、星雲、ブラックホール、白色矮星などがとりあげられている。
 最後は、用語事典で締めくくられている。

 この本の主な読者層としては、ちょっと進んだ幼稚園児から、上は小学校高学年位までの、主に男の子をターゲットにしたと思われる。
  同シリーズとして「がんばれロボコン図鑑」も出版されていたようである。また、1970年代のアニメーションは、マーチャンダイズの展開も含めて、女の子向けと男の子向けがそれなりに分かれていた。アニメの企画が先行したグレンダイザー自体も、TV放映と同期して雑誌連載がなされ、その媒体は、テレビマガジン(含増刊)、テレビランド(含別冊)、冒険王、たのしい幼稚園、ディズニーランドといったもので、幼児&男子児童向きのもので、作画も男性の漫画家によってなされた。
 一方、ベルサイユのばらは、週刊マーガレットが媒体で、こちらの主なターゲットは女の子&女性である。
 両作品は、想定したメインターゲットが全く違うと言って良いだろう。

 週刊マーガレット誌上では、当時のアイドル西条秀樹とオスカルが剣を交えるというコラボが掲載されている[2]。1973年2月のことで、ベルばら特集ではなく西条秀樹特集として出ており、夢の共演と書かれていた。これなら双方とも女性のアイドルということで、まだ理解できるのだが、「UFOロボグレンダイザー」と「ベルサイユのばら(パクリ)」のコラボなんて無茶な企画、一体どこの誰が思いついたんだろう?絵物語を見ても、作者の名前は書かれていない。オスカルをコマンダーに仕立てた挙げ句、身長30 メートルに巨大化させグレンダイザーと剣劇をやらせるなんて、グレンダイザーファンが見てもずっこけるが、ベルばらファンだってのけぞると思う。いや、それ以前に、熱烈なオスカルファンをまとめて敵に回しそうな気もするが。一体どういう読者層を狙っていたのか、今となっては謎が深まるばかりである。マジンガーZやグレートマジンガーに比べて、グレンダイザーがいまいちマイナーなのは、ひょっとしてここで女性陣を大量に敵に回したことが祟ってるんじゃないだろうな……。

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図14:「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」カバー裏側の奥付

 ちなみにこの本、ダイナミック企画と東映動画のクレジットはちゃんと付いています。池田理代子と集英社のクレジットはどこにも見あたりません。こんなんで通しちゃっていいのか、ホントに。

 資料[2]の「ベルサイユのばら大事典」には、「ベルばら資料館」なる文献リストが掲載されている。ベルばらをモデルにした作品や、フェミニズム関係の論説文、子供向け漫画解説本に加え、柳田理科雄氏の空想科学読本(アントワネットの髪が恐怖のあまり白くなったことを科学的に正しくないとツッコミ)まで掲載されている。しかし、「グレンダイザー大図鑑」は出ていない。さすがにこんな所でパクられているとは、思いもしなかったのではないだろうか。

 グレンダイザーとベルサイユのばらの共通点が他にあるとすれば、グレンの作画監督をやった荒木伸吾&姫野美智氏が、アニメのベルばらの前半の作画・キャラデザインを担当したという事くらいである。ただし、ベルばらのアニメ化はこの本が出版された後である。
 グレンダイザーの方は、この絵物語の少年漫画なタッチで進めても(キャラが似てないとはいえ)さほど違和感がない。しかし、近衛連隊の軍服姿のオスカルってかメスカル(もうどっちだっていいや)を立たせると、結構浮きまくっている。典型的な少女漫画と少年漫画の画風の違いが原因だろう。ところが、荒木伸吾&姫野美智コンビが作画を手がけると、双方の世界が違和感なく融合するわけで、今回不完全な「融合」を見てしまったおかげで、このコンビの凄さを改めて感じた。

 作者が誰かはわからないが、「ベガ星友のバラ」は、きっと悲劇のコマンダーシリーズをやりたかったんだろうなあ。TV本編第9話「許されざる怒りを越えて」(コマンダーミネオ、親衛隊員)、第34話「狼の涙は流れ星」(コマンダーガウス)あたりを下敷きにしているように見える。馬にまたがってやってくるところがガウスだし、夜中に大介を剣で襲うが気付かれて逃亡するあたりがミネオである。ただし、ミネオは研究所ではなく牧葉家に宿泊し歓待を受けて、「こんないい人達を殺せない」といって殺すのをためらっている。また、宇門博士が外部の人間に研究所を案内して見学させるシーンは、本編通じて見られない(医務室に収容:ナイーダ、応接室で相手:ホワイター少尉、といった例はあるが)。

 まあ、やりたかったことはわかるのだが、それならなんでオリジナルコマンダーを作って、人質でも脅迫でもなんでもでっち上げなかったのかと。どうしてここでベルばらなのかと。ベルばらを混ぜたがために、悲劇のコマンダーシリーズが転じてトンデモ本の領域に突っ込んでしまっているのだが。こんなことしても喜ぶのはトンデモウォッチャーだけで、当時のグレンファンの男の子達には何だかわからなかっただろうし、オスカルファンの女の子も呆れるだけだと思うわけで、ウケを狙って思わず外したにしても壮絶な外し方だと思う次第である。

 


参考文献

  1. 「テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑」(徳間書店、1976)
  2. 「ベルサイユのばら大事典」(集英社、2002)
  3. 池田理代子:「ベルサイユのばら 1巻」(集英社文庫、1994)
  4. 池田理代子:「ベルサイユのばら 2巻」(集英社文庫、1994)
  5. 池田理代子:「ベルサイユのばら 3巻」(集英社文庫、1994)
  6. 池田理代子:「ベルサイユのばら 4巻」(集英社文庫、1994)