シナリオでは戦闘的な宇門博士(グレン42話)
はじめに
グレンダイザーのシナリオを見ていると、演出によってかなり変更されているものがある。ここでは、そんなエピソードのうちの1つである、「危機!研究所よ立ち上がれ」(42話)について、シナリオではどうであったかを紹介する。シナリオは馬嶋満氏、演出は松浦錠平氏である。
この回はかなり変更が多いが、シーンの場所や各キャラの台詞などで、特に大きな変更のあった部分は色を変えて示した。
シナリオ紹介
No. | 記述など |
1 | 宇宙科学研究所・表 巨大なトレーラー運搬車でコンピューターの機材が運び込まれてくる。 |
2 | 同・製造修理工場 巨大なクレーンでコンピューターの機材が降ろされて来る。 一隅で見守っている宇門、大介、甲児、ひかる。 甲児「凄ェや!……何です、これは?」 宇門「中央制御装置の機材だ」 ひかる「中央制御装置?」 大介「新しいシステムをコントロールする電子頭脳のことだよ」 ひかると甲児、問うように宇門を見る。 宇門「ベガ星連合軍は、地球攻撃を更に強化して来ることだろう。われわれも、それに対応して、研究所の基地化を急がねばならぬようになった」 甲児「えっ?! 研究所を基地化するんですか?!」 宇門「うん(頷く)」 甲児「(喜ぶ)そいつはいいぞ!」 ひかる「いつ基地は完成するんですか?」 宇門「この制御装置を、中央制御室内のバンクに取り付け終えれば、基地の総てのメカは作動し始める。ま、早くて、二、三日はかかるだろう」 大介「それまでに、ベガ星連合軍に気付かれねばいいのだが……」 大介、心配そうに屋上を見上げる。 |
9 | 宇宙科学研究所・屋上 太い雨脚に打たれて、パラボラアンテナが回っている。 稲妻と共に、パラボラアンテナも帯電して青白く輝く。 |
10 | 同・観測室 レーダーの画面が乱れている。 林「所長、駄目です!レーダーの受信状態が悪くて、何も見えません!」 宇門「よし、山田君。宇宙望遠鏡に切り替えて監視せよ!」 山田「はい」 山田、スイッチを入れかける。 不意に、観測室全体が青白く輝く。 宇門「どうした?!」 山田「(大声で叫ぶ)敵襲です!」 宇門「なにッ?!」 驚いて、正面のガラス窓から前方を見る。 雷雲の中からミニFO編隊が急降下して来るのが見える。 |
11 | 同・研究所の上空 ミニFO編隊、パラボラアンテナめがけて集中攻撃をしかける。 たちまち吹っ飛ぶパラボラアンテナ。 |
12 | 同・観測室 林「所長!アンテナがやられました!」 宇門「直ちに非常配備に付け!」 素早くスイッチを入れる。 |
13 | 同・屋上 防御ドームが観測室の上からかぶさる。 ミニFO、その観測室に猛攻撃。 |
甲児はダブルスペイザーで出撃。 デュークはひかると共にデュークバギーで研究所に到着。 グレンダイザーはルート2の原生林から出撃。 円盤獣ガウガウと対戦後、湖に逃げ込んだガウガウを追うため、ひかるがマリンスペイザーで出撃。 (湖は「諏訪湖」となっている) マリンスペイザーとドッキングしたグレンダイザーは、湖底でトラップされる。 ガンダル母艦が研究所に向けて出撃。 |
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37 | 宇宙科学研究所・観測室 山田「所長、大変です!」 宇宙テレビスクリーンに、ガンダル専用母艦とミニFO大編隊が映し出される。 宇門「総攻撃だ!よし、戦闘要員のみを残し、その他は地下壕に退避させろ!」 大井「ハイ!」 急いで非常ボタンを押す。 |
38 | 同・所内の廊下 非常退避のランプが点き、ブザーが鳴り渡る。 あちこちのドアがはじけるように開いて、所員たちがとび出してくる。 |
39 | 同・研究所の屋上 建物のまわりから防空気球が上がって、バリアネットを張る。 |
40 | 同・観測室 通信機に向って叫ぶ宇門。 宇門「大介!大介!……甲児君!」 ビリビリと雑音のみが返ってくる。 大井「通信アンテナがやられて、外部と通信は不能です!」 宇門「仕方がない、こうなったら、われわれの力で戦うしかない!」 通信機のスイッチを切り替える。 宇門「作業班!作業班!中央制御装置を直ちに作動できるよう、取り付けを急げ!」 通信機からの声「そ、それは無理です」 宇門「やるのだ!……もし作業できねば、われわれは全滅する」 |
41 | 同・中央制御装置室 作業班長「(決意をこめて)ハイ!」 懸命に作業をしている作業班の所員たち。 |
46 | 同・研究所の上空 ミニFO編隊、ビームを放射するが防空気球のバリアネットに反応して研究所まで届かない。 (略) |
49 | 宇宙科学研究所・観測室 山田「所長!バリアがやられました!」 宇門「なにッ?!」 愕然となり、通信機に向って叫ぶ。 宇門「制御装置の取り付けはまだか?!」 応答無し。 宇門「作業班!作業班!」 大井「所長!各部署とも連絡不能です!通信回路を破壊されました!」 宇門「そうか……やむを得ん。(大声で)全員地下壕に退避せよ!」 団兵衛、歯ぎしりする。 団兵衛「ウーム、残念無念じゃ……」 吾郎「父上、早く!」 吾郎、団兵衛の尻を押して逃げ出す。 宇門、ひとり取り残されてジッと目を閉じる。 宇門「グレンダイザーはどうしたのか……まさかとは思うが」 憂色が濃い。 |
ガンダル母艦の巨大ビームの攻撃により、戻ってきたデュークと旋回しながら戦っていた甲児の目の前で、研究所は粉々になる。 | |
57 | 宇宙科学研究所・上空 (略) デュークフリード「あッ!」 愕然と息を呑むデュークフリード 焰の中で、もだえ苦しむ宇門の姿が目に浮かぶ------ デュークフリード「(絶叫)父さん!!……よくもやったな!」 怒りに燃えてガンダル専用母艦めがけて突進する。 (略) |
61 | 宇宙科学研究所・跡 大地の底から、宇宙科学基地がせり上ってくる。 |
62 | ガンダル専用母艦・操縦室 ガンダル「あッ!何だあれは?!」 |
63 | 宇宙科学基地 各所に高角ビーム砲が現われ、一斉にビームを放射し始める。 |
ガンダル専用母艦撤退。 グレンダイザーはガウガウを撃破。 |
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64 | 宇宙科学基地 グレンダイザーを真ん中に、ダブルスペイザーとマリンスペイザーが左右に翼を並べて着陸する。 それぞれの操縦席からとび降りて来るデュークフリードと甲児とひかる。 その目の前で、基地の玄関のドアが開き、宇門と林たちが出てくる。 デュークフリード「父さん!」 駆け寄るデュークフリード、甲児、ひかる。 甲児「所長!まさか幽霊じゃないでしょうね?!」 宇門「心配をかけて済まなかった……やられる寸前に、制御装置の取り付けが完了したのだ」 デュークフリード「それじゃ、みんな無事なんですね?!」 宇門「うん。団兵衛さんも吾郎君も中に居る」 ひかる「よかった……」 甲児「ああ(頷く)」 嬉し涙がドッとあふれてくる。 甲児「なんでェ、なんでェ、……焼け跡の煙ってのは、ヤケに目にしみるじゃねぇかヨ!」 コブシでグイと涙をしごく。 デュークフリード、そんな甲児の方をしっかりと掴んで、微笑む。 その蔭で、そっと涙を拭くひかる。 宇門、振り向いて、基地の方に向かって手をあげる。 宇門「シャッター・オープン!(呼称未定)」 基地のシャッターが開いて、発射塔が中からせり上がって来る。 宇門「あれが、スペイザーの発射塔だ」 甲児「エエッ?!凄えや……」 驚異の目で見守る甲児とひかる。 宇門「基地が完成したのを機会に、きみたち三人は、正式に基地の戦闘要員として活躍してもらうことにした。これからも一層の奮起を頼むぞ」 三人「ハイ」 嬉しそうに力強く答えるデュークフリード、甲児、ひかる。 その目の前に、今や基地がその全貌を現したのである。 雷雲も去り、晴れ上がった空に、美しい虹が輝いている。 |
本編との違い
シナリオの宇門博士は、研究所の基地化に積極的である。
一方、 本編では、研究所前で制御装置を降ろすシーンは、
宇門「ベガ星連合軍の攻撃に備えているんですよ」
甲児「そうさ、この研究所もだいぶ知られちゃったからね。だけどこれさえあればへっちゃらさ、ねえ、所長」
宇門「う……うん」
甲児「あれ、自信無いんだなあ。大丈夫、心配しなくたってベガ星連合軍なんていくら来たって、ダブルスペイザーやグレンダイザーがある限り、研究所に指一本触れさせませんよ」
宇門「よし、みんな。敵はいつ来るかわからない。急いでやろう」
となっており、基地化のことは、宇門は一切口にしていない。また、研究所内に据え付けているものがバリアー発生装置で、気球のようなものは登場しない。作業場所も、シナリオではダム内部の工場になっているが、本編では研究所敷地内での作業のみである。
制御室で独り、電源スイッチに手を掛けて逡巡する宇門博士の姿は、シナリオ中にはない。
さらに、所長室での大介とのやりとり
宇門「ああ……違うんだ。そんなことじゃないんだよ。いずれ、この研究所が攻撃されることは間違いない。だが、今の防備だけでは到底防ぎきることは出来まい。グレンダイザーとダブルスペイザーが必ず守れるとは限らないのだ。もっと、根本からこの研究所をなおさなくては、だめだ。大介、みんなには言わなかったが、実は、この研究所を……」
大介「すると、父さんはここを……」
宇門「そうだ、私はずっと前から少しずつこの計画を実行してきた。そして、ついに完成したのだ。残るはメインコンピュータのセッティングだけだ」
大介「なぜ、すぐにやらないんですか?」
宇門「うむ……私が悩んでいるのはそれなんだよ。私だってそうしたいんだが」
宇門「大介、お前も知ってるだろう。私の夢はね、あの広大な宇宙の謎を少しでも解き明かすことだったんだよ。無限の広がりを持つ宇宙、知れば知るほど奥深さを増す宇宙。宇宙空間はいつでも私に新しい驚きと感動を味合わせてくれる。私はそんな宇宙が与えてくれる感動が欲しくてこの研究所を作った。だが、あの忌まわしいベガ星連合軍がやってきて、都市を攻撃し、人々を殺した。そして、今やこの研究所は戦いの道具になろうとしているんだ。できることなら、この研究所を戦いの道具にしたくない。だから、私にはどうしてもコンピュータのセッティングができないんだ」
宇門「大介……大介、どうした。お前が気にすることはないんだよ。ベガ星連合軍との戦いは誰かがやらなきゃならないことなんだ。私には覚悟はできていた。このときが来るのがわかっていたからこそ、研究所を改造したんだ。ただ、私の長年の夢を断ち切ることは難しい。それだけなんだよ。だが、それも、いずれ、やらざるを得ないだろう」
は、基地化を宣言したシナリオには登場しない。
ハードウェア面での違いは、バリア発生装置で、シナリオでは気球を上げてネットで覆うようなイメージで書かれているが、本編では研究所の四隅に取り付けられた発生装置が半球状のフィールドを発生させている。バリアが破壊された後は、パラボラを収納し、観測ドームごとダム内に降下しているため、パラボラアンテナは破壊されず、無事に残ることになる。円盤がビーム攻撃を仕掛けるのはその後になる。
通信不能の理由は妨害電波によるもので、所内設備の破壊が原因ではない。
甲児のからの通信に対しては、
宇門「甲児君、遅かった。我々は地下へ潜る。君は逃げろ。研究所がどうなっても、君は無事でいてくれ」
と、宇門の側から一方的に宣言している。地下壕への退避は命じるが、所員が大勢出てくるシーンは本編には無いし、戦闘要員が居るという描写は、本編では一度も出てこない。
なお、 研究所の完全破壊で絶叫するのは、シナリオではデュークだが本編では甲児である。
新研究所の立ち上げは、人任せにせず、宇門が独りでセットアップを行っている。その結果、新研究所の全貌が現れるのは、円盤獣撃破前となる。ビーム砲は、スペイザー発射塔に備え付けられているので、ドームを開いた後、発射塔がせり上がって対空砲火を浴びせる形での反撃となる。「シャッター・オープン」の呼称はそのまま本編まで引き継がれた。
最後のシーンも、
宇門「実は、ずっと前から、この新研究所を密かに作っていたのだ。みんなには心配かけて済まなかった」
甲児「なあに、こっちは全然心配していませんよ。所長のことだからきっと大丈夫だとは思っていたんですがね」
ひかる「あら、甲児君たらあんなに泣き叫んでいたのに」
甲児「はぁぁ、聞かれてたのかぁ」
だけとなっている。これからは積極的に戦おう、とは言っていない。
感想等
視聴者をはらはらさせる演出は、本編の方ではないかと思う。研究所は機能強化だけで、本格的に基地化したということは、新研究所出現まで視聴者には伏せられている。また、戦いに積極的でない宇門博士の姿勢が、研究所立ち上げシーンにつながると、いよいよ追い込まれたということがよくわかる。
その代わり、ダイザーチームには何も知らせないように大工事をやったことになってしまった。また、珍しく大介に向かって弱音を吐いたりもしてしまったが、戦っている大介の心情を思うと、少々酷であろう。
攻撃中も、大介に促されてメインコンピュータの立ち上げを決心し、他人まかせにせず独りで作業する宇門博士は結構かっこいいと思う。