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リアル「光子力」な論文に甲児君登場

はじめに

 Physical Review Lettersといえば、物理系の学術雑誌の中でもインパクトファクターが大きいことで知られている。この雑誌に、兜甲児(光子力研究所)が共著となった論文が掲載されているので紹介したい。なお、オリジナル文献のpdfファイルをミラーしているので、私の解説&ツッコミと見比べていただきたい。

文献紹介

"Direct Measurement of Infinitesimal Depletion Force in a Colloid-Polymer Mixtureby Laser Radiation Pressure"
Y. N. Ohshima1, H. Sakagami1, K. Okumoto1, A. Tokoyoda1, T. Igarashi1, K. B. Shintaku1, S. Toride1, H. Sekino1,K. Kabuto2, and I. Nishio1
1Department of Physics, Aoyama-Gakuin University, Setagaya, Tokyo, 157 Japan
2Photon Force Research Laboratory, Fuji, Shizuoka, 417 Japan
Physical Review Letters vol.78 No.20 (1997) pp.3963-3966

【Abstract日本語訳】

 コロイド粒子と一緒に吸着しない高分子を分散させると、コロイド結晶ができたりコロイドが凝集したりする。その原因は、コロイド粒子間にはたらく引力(depression force)であると考えられてきた。この力は、コロイド粒子と平面の間、すなわち、無限に大きな半径の球面の間に働く。我々は、レーザー輻射圧を用いてコロイド粒子とガラス表面の間にはたらく引力を測定する方法について報告する。測定した力は、予想された大きさと一致することがわかった。

どこが「光子力」なのか?

 この論文で使われた測定法で、光子(photon)を使っている。同じ原理を用いた、もう少し一般的な器具に、「レーザーピンセット」がある。

laser.png 図1:レーザーピンセットの原理

 光は波であると同時に粒子なので、運動量を持っている。光の波長より充分大きく、かつ、光が通るラテックスビーズは、レンズと考えることができる。大きい対物レンズで光を絞って、ビーズの中心から離れた位置で焦点を結ぶようにして照射する。光がビーズに入るときに屈折し、屈折のときの光の運動量変化を打ち消す、つまり運動量保存則を満たすように、ビーズが力を受ける。光がビーズから外に出るときも屈折が起きるから、ビーズは力を受けることになる。力の方向は、ビーズの中心から、ビーズ内の光の焦点に向かって働くので、光でビーズを保持することができる。ただし、ビーズの屈折率がまわりの媒質(大抵は水)より大きい必要がある。

 図1にレーザーピンセットの原理を示した。簡単のために、粒子に光が入射する場合の、右側から入射してくる光についてのみ図示した。Δpが、屈折によって変化する光の運動量で、グレーで示したのが、運動量を保存するためにビーズが動こうとうする方向、同じことがビーズ右側でも起きる(正確に言うと、中心軸のまわり全部でおきる)ので、この図ではビーズは上向きの力を受ける。

 とにかく、光の焦点に向かってビーズの中心が動こうとするので、レーザーでビーズを保持したり、引っ張ったりすることができる。

SFでいうと?

 光をうまいこと当てて物を止める技術、ということになる。光でロボットや人間を止めたり持ち上げたり、でかい宇宙船を引っ張ったり(トラクタービーム)というのは、マンガやアニメで頻出のアイテムである。光が通らない巨大なものを押さえ込むのは今の科学ではちと無理だが、ミクロな世界でなら既に実現しているということだ。

 まあ、普通は光が当たると圧力を受けて押されるので、それを使って宇宙空間を航行するのに使うことも可能だろう(ソーラーセイル)。

 もっとSF的なアイデアを出すなら、物体一般を通り抜けつつ屈折するような便利な粒子を考えて、そいつで照射することで、ロボットでも宇宙船でも保持する、なんてことになるのだろう。

余談

 こういうお遊びをやったのは、兜甲児以外の面々の所属を見てわかる通り、青山学院大学理学部物理学科の研究室である。筆者が伝え聞いたところによると、このグループは、日本物理学会にエントリーするときにも、しっかり兜甲児の名前入りでエントリーしたらしい。ところが、日本では甲児君は超有名だったので、学会の主催者サイドにバレて、「ちょっとそれは……」と言われてしまい、果たせなかったとか。いずれにしても、教授以下スタッフが全員このノリだと、もはや院生や学生が止めることなどできないということのようだ。

 マジンガーZは海外でも人気だが、登場人物の名前はそれそれの国に合わせて変更されているので、兜甲児が共著者に入っていても、外国人のレフェリーは怪しまなかったのだろう。

 実のところ、論文の共著者を誰にするかというのは、気をつかう問題でもある。仕事の成果をどう分配するかという意味があるからだ。このように、架空の人物を共著者に入れても、まあ後で揉めることはまず無いと思われる。

 光子力研の英語名称がソレでいいのかとか、場所はソコでいいのかといったツッコミどころはあるんだけど、とりあえずあっぱれというか、よくやったと言うべきだろう(「ようやるわ」が正しいかもしれないが)。