09
フリード星は王制といえども、彼は一般市民と同じ学校へ通っていた。もちろん、その他に彼には特別教育が施されたが、王家の人間が一般市民と肩をならべ、親しく交流する事は彼の父、フリード王の意志でもあったのだ。彼がグレンダイザーに戻って来た時、空は入道雲が埋め尽くし朝の良天候とは打って変って今にも降り出しそうな天気だった。ふと、彼は足元の何かに気がついた。それは何やらフリード文字が刻まれた一枚のタブレットだった。彼はそれを手に取り、そこに刻まれている文字を読んで顔色を変えた。
『グレース・マリア・フリードは預かった。王宮跡へ来い。』
彼は急いでグレンダイザーのコックピットに戻った。しかしそこにはマリアの姿はなかった。彼はとんぼ返りに外へ飛び出し、記憶を頼りに王宮を目指して走り出した。突然、怒ったような風が大地を駆け抜け、天からは矢の如く雨が降り出した。
ACT.4 フリード星 残存群
彼は走った。降り出した雨は一層激しくなり、濡れた瓦礫は彼の足をすくい幾度となく転びそうになった。濡れた髪に激しい風がはらみ顔にかかる。30分も走り続けた頃だろうか、この豪雨の中、前方100メートル程の所に何かが見える。彼の記憶は正しかった。破壊され完全にはその原型をとどめてはいないが、それはまぎれもなくフリード王宮だった。彼は走りながら見覚えのないものに気がついた。王宮の右端に何かが立っている。その刻、轟音と共に稲妻が光りそれを鮮やかに暗空に照らし出した。彼はそれを見て驚愕し、思わずその場に足を止めた。
「------マリア!」
それは十字架に掛けられたマリアだった。
(------だ、誰が一体こんな事を!)
彼は再び走り出し、一気に王宮へ駆けこんだ。マリアを十字架から降ろすべく階段を目指す。------と、その時、背後から突き刺すような鋭い叫びが彼を襲った。
「待て!」
彼は後を振り返った。そこには一人の若い男が立っていた。
「‥‥き‥‥君は、フリード星人か?」
彼のことばは息切れて吐く息は白く、体からは自分の体温で蒸発した汗が白い湯気を上げていた。
「そうだ。」
その男は感情を押し殺したように口数少なく、顔にかかった長い髪の間から鋭い視線をデュークに向けていた。
「どういう事なんだ!こんな事をしたのは君か?」