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彼はこの無礼極まるマリアへの行為に対し少々感情的になっていた。
「君?君たちと言ってもらいたいね。」
「何?」
彼はその男の後方の異様な雰囲気に気がついた。その男の後に100人、いや200人ほどの人間が集まっており、この暗い大ホールの半分を埋めていた。
「か…彼等は…彼等もフリード星人なのか?」
「そうだ。」
「そうか…これだけ生きのびてくれた人がいたのか…」
彼はこの異様な雰囲気にもかかわらず、これだけ多くの生存者達と一度にめぐり会えた事がうれしかった。しかし十字架に掛けられ雨ざらしになっているマリアをこのまま放っておく訳にはいかない。
「と、とにかく、どういう事情か知らんが僕の妹を早く十字架から降ろしてくれ!」
「そいつはできないね。」
「何故だ!?、僕は…」
「知ってるよ!デューク・フリード!」
男は今まで押し殺していた感情を一度に吐き出したように叫んだ。
「フリード星を裏切った王子、デューク・フリードとその妹グレース・マリア・フリード!」
この言葉は彼の心に鋭く突き刺さった。恐れていた最悪の事態である。しかし、こうなってしまった以上、真正面からこの誤解を解く為に対立しざるを得ない。
「違う!僕等はフリード星を裏切った訳ではない!」
「何を言う!最終戦争の時、グレンダイザーをフリード星から持ち出しベガ大王に魂を売ったのだ!」
「誤解だ!聞いてくれ!」
「うるさい!貴様はあの悪魔のようなベガ大王の娘と婚約していたじゃないか!おおかた、あの悪魔の娘にたぶらかされたんだろう!」
この言葉に今まで息を殺して沈黙を保っていた男の後の群衆が、突然、その沈黙を破った。そして、王子デューク・フリードを罵る声が宙を飛んだ。
「そうだ!裏切者め!」
「今度は生き残った俺達を皆殺しにする為にやって来たんだ!」
「殺されてたまるか!」
「殺せ!」
「殺される前に殺すんだ!」
彼はこの群衆の迫力に圧倒されていた。
「ち、違うんだ!頼む、聞いてくれ!」
彼は必死に叫んだが、彼の声などはこの群衆の罵倒にかき消されてしまう。完全に多勢に無勢である。だが、何としてでもこの誤解という厚い壁を破らなければならない。これはフリード星再建への第一の試練なのだ。と、その時、この喧噪を制する一声がホールに響き渡った。
「静まれ!皆の衆!」
一瞬、ホールは水をうったように静まりかえった。そして、全ての人がその声の主を振り返った。群衆の中央部が、カーテンを開けるようにサッと開く。------そこには一人の老人が立っていた。