17
そこには、毎日見慣れた王室の風景はなかった。濛々と立ち込める煙と燃えさかる炎の中に泣きながらしゃがみ込んでいるマリアがいる。
「マリア!大丈夫か!?」
その声に、マリアは煙で真黒になった顔をあげ、涙で真赤になった目を彼に向けた。
「お兄さま!‥‥お父さまとお母さまが‥‥!」
マリアが泣きながら指差す方向に父と母が倒れている。
「父さん!母さん!」彼は二人に駆け寄り、まず仰向けに倒れている母を抱き起こした。
「母さん!…母さん!…」
無駄だった。フリード王妃は既に息絶えていた。その時、そのわきに俯せに倒れている父が声をあげた。
「デュ…デューク…」
「父さん!大丈夫ですか?しっかりして…‥」
しかし、父フリード王も虫の息だった。もう焦点が定まらないであろう視線を、必死に彼に向けようとしていた。
「大王…ベガが裏切ったのじゃ‥‥二星間協定も…おまえの…婚約も…全て儂等を油断させる為の罠だったのじゃ…」
まさに、休日の正午、それもデューク・フリードとルビーナの婚約記念パーティーの翌日という、最も手うすな時間を狙った奇襲作戦だった。
「父さん、喋らない方がいい。すぐ安全な所へ‥‥」
「…ま、待て…儂はもうだめじゃ…」
「父さん!」
「聞け…よいか…奴等の狙いはグレンダイザーじゃ。」
「グレンダイザーを?」
「そうじゃ…奴等はグレンダイザーを侵略兵器にするつもりじゃ…奴等に渡すな…宇宙へ逃げろ…よいな…頼んだぞ…う、宇宙の…平和…」
そこでフリード王はガックリと息絶えた。
「父さん!父さん!」
彼の目から涙が止めどなく流れ出した。母が、そして父が目の前で今、死んだ。信じ難い悪夢だった。しかし、これは現実である。彼は涙をぬぐい、スックと立ち上がった。感傷に浸っている時間はない。父の遺言を遂行するのだ。
「マリア!来るんだ!」彼はマリアの手を引いて王室を出、階段を駈け降りホールへ出た。その時である。ドッガーン!という爆音と共にこの大きなホールの天井を支えていた巨大な石柱の一本が、彼等の頭上へ崩れ落ちて来たのである。彼は咄嗟にマリアを突き飛ばし、自分は前へ飛んだ。ズッシーン!石柱は二人の間にその巨大な姿を横たえた。
「し、しまった!マリア!」
彼は判断を誤った。この巨大な石柱の向こう側のマリアを助け出す術はなかった。その時、彼は後方の物音に振り返った。見ると、ベガ星の兵士が数人、地下の格納庫へ通じる階段を駈け降りて行く。父の言った通り、彼等はグレンダイザーを狙っているのだ。
「…お兄さま!助けて!」
石柱の向こうでマリアが助けを求めている。彼は迷った。しかし、ぐずぐずしていればグレンダイザーはベガ星人の手に落ちてしまう。彼は決意し、走った。非情になる道を選んだのである。
(許してくれ!マリア!)
彼は心の中で叫んだ。格納庫への階段を駈け降りると、そこには三人の警備兵が折り重なって倒れていた。グレンダイザーを守る為ベガ星兵士に抵抗し、そして殺られたのだろう。彼はその一人の右手からレーザー銃を取り、格納庫へ飛び込んだ。二人のベガ星兵士が振り向き、彼に向かって光線銃を乱射する。彼はこれを間一髪かわして伏せ、続けざまに二人の兵士にレーザーを見舞う。悲鳴をあげた兵士が倒れる。彼はグレンダイザーに目を向けた。一人の兵士がコックピットに入り込もうとしている。すかさずレーザー銃の照準をその兵士に合わせ、撃つ。命中した。兵士はコックピットから落下し、船体で大きくバウンドして床に激突した。