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「僕だ…オックスだ。」
「あ、入って。」
ドアを開け、オックスは中に入る。小さな部屋だった。昔はフリード王宮の近衛兵の個室だった部屋である。中にはベッドがひとつ置いてあり、そこには頭に繃帯を巻いた老人が体を横たえていた。昨晩、群衆の投石に倒れたあの老人である。そのわきにはエリーナが座っていた。老人はゆっくりと上半身を起こしながらオックスに声をかけた。
「おお、オックス。」
オックスは軽く会釈し、エリーナの横の椅子に腰を降ろした。
「どうですか?具合は。」
「いや、何、大した事はない…ところでオックス、ペガサスの奴はどうした?」
「駄目でした‥…でも、あいつも馬鹿ではありませんから…きっとわかってくれると思います。」
「そうか…駄目じゃったか…あいつは物心もつかぬうちに病気で母親を亡くした…子供の頃から父親だけで育ったあいつにとって、父親は全てだったのじゃ。父の面影から、離れられんのじゃ‥‥」
「かわいそうな…ペガサス…」
エリーナが呟く。
「だが、昨日の王子の目に嘘はなかった。儂は王子を信じたい。」
「僕も信じます。」
「今までみんなのまとめ役だったあいつがあれではな…早く何とかせねば…」
そのとき、部屋の外の通路を、誰かがけたたましく走ってくる音が響いた。
「円盤だ!円盤が来た!」
「ええっ!?」
オックスとエリーナは立ち上がり、ドアを開いた。ドアの前を通り過ぎた男に向って、オックスが訊いた。
「何だ!どうした!」
男は立ち止まり、振り向いた。
「円盤だっ!円盤が来たんだ!それもいつものように一機じゃなく編隊でだ!」
「何だって!」
二人は部屋を出、地上へ向って走った。
お灸前には、既に数十人のフリード星人達が集まっていた。オックスとエリーナは群衆をかきわけ、前へ出た。戦闘にはペガサスがいた。
「ペガサス!」
ペガサスは振り返った。
「見ろっ!やっぱり奴等ははって来た!」
見ると、1キロ程度前方の碧蒼に、七機の小型円盤が編隊を組んで浮いている。
「本当に、ベガ星人なのか?」
オックスのその言葉が終わるか終わらないうちに、その円盤群は王宮に向かって加速した。
「こっちへ来るぞ!」
誰が言ったかそのことばに群衆はドッと王宮内のホールへなだれ込んだ。円盤が、キューンと音を立てて接近する。円盤はペガサス達三人の頭上を通過した。と、次の瞬間、グワーン!という轟音と共に、王宮の一角が吹っ飛んだ。円盤の攻撃である。崩れ落ちる壁の破片に、数人のフリード星人が悲鳴を上げて逃げ回る。
「チックショウ‥…ベガ星人め!」
ペガサスが言った。