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彼女が留学した学校は彼が通っていた学校だったし、二、三度会話を交した事もあった。彼女を嫌っていた訳でもない。一星の王女たる気品を持った、美しくすばらしい女性だと思っていた。しかし、具体的に婚約という話しを持ち掛けられた時、彼の心の中にはナイーダという存在が大きく浮かび上って来たのである。それまでの彼にとって、ナイーダはよき友であり、学問の上ではよきライバルであった。だが、この時点で彼は自分がそれ以上の感情をナイーダに持っている事に気づいたのである。自分はナイーダを愛しているという事に------。しかし、父フリード王が彼に選択の自由を与えたからと言って、この問題はデューク・フリード個人の域で片付けられるものではなかった。ベガ大王は多くの星を弾圧的に征服して来た男であったが、父フリード王はこの統治力を高く評価していた。そして、父フリード王の夢はベガ生とフリード星による連合政治執行体を組織し、ベガ星の支配下にある星の弾圧を解き、二つの星の統治下にあっても各惑星国家の主張と自由を尊重する大きな宇宙的規模の理想国家建設であった。その為にはまず、二星間の安定した友好関係を確保し、二つの惑星国家を対等の関係に置く必要があった。彼はこの遠大な夢を幼い頃から父に聞かされていたし、行く行くは自分がこの夢を受け継いで行かなければならない事も自ら知っていた。そして、彼はベガ大王の気質も知っていた。もし、ここで彼がルビーナとの婚約を拒否すれば友好条約を破棄するどころか、侵略によるフリード星征服をやりかねない男である。フリード星の科学力、軍事力はベガ星に勝るとも劣らぬものだったが、一体誰がこの戦争を望むだろうか?ましてや王家の人間が戦争の引き金を引き、星民達を危険に晒すなど、許されない事である。歴史上、他の惑星と一度も戦争をした事がないという事がフリード星の誇りでもあったのだ。それに、この婚約を受ければ父の遠大なる理想へのワン・ステップになる事は明らかだった。------結局、彼は三日三晩の間悩み考えたあげく、一星の王子としての立場を採る事を決心したのであった。そして、昨日は壮大な婚約記念パーティーが開かれたのであった。全てのフリード星人はこの婚約を祝福した。彼等にとって、この婚約は永遠の宇宙の平和を約束するものの如く映っていたのである。しかしそれは、美しく悲しい、そして淡くはかない少年デューク・フリードの初恋の目覚めであり終りであった。そしてその日、彼はナイーダを呼び出した。春が来れば二人は卒業である。